の3編の詩をもとに作曲されたピアノのための夜想曲。
すべての詩が愛と死をテーマとしている。
特に「Ⅲおお、愛して下さい」は、アンコールでもよく弾かれる。
“愛せるだけ愛しなさい。そのときが来ます、あなたが墓場に立って嘆くときが。”とある。 「愛の夢」の作曲はリスト36歳の時。彼は華やかな演奏活動を行い多くの女性と恋愛するが、晩年は聖職者になり宗教的な作品を書くようになる。(“巡礼の年第3年”等)
そういえば愛について書いてあったと思いついて、久しぶりに哲学書を手に取ってみる。難しい本だがだいたいこんなことが書いてあるようだ。
“人の究極の幸せとは自分の心が平穏な状態にあることにこそある。自分らしく生きていること、人を恨まずねたまず、自分自身を肯定できることが最高の平安である状態。” そして“「愛」は思考のあり方のひとつだから大切なのは「愛する実体」を消去して「愛」だけを感じること。”とある。そこに至るまでの思考方法もたくさん書いてあるが、そちらは私の頭では読解不可能だ。
人が避けられないものは納税と死というのは笑い話。大切な人を亡くすというのは人生最大級のストレスだ。残された人の悲しみは壮絶だが、愛する人といつまでも幸せに暮らしたいと願っても死は必ずやって来る。
お世話になった先生の一周忌のお参りに伺った時、奥様がこう話された。
「主人は亡くなってもここにいるのよ。そう思えるようになったら全然さびしくなくなったの。」
しばらくは何もする気になれなかったが、そう考えられるようになってから少し生きる力を取り戻されたそうだ。オーラが見えた。私が本を読んでも理解できない何かを、深い悲しみの中から獲得されたのだと思った。
大好きな映画のエンディングに、たくさんの落葉樹の中を年老いた主人公が独り歩き去っていくシーンがある。落ち葉が後から後から降ってきて一面の黄金色に輝く。老いも孤独も死も彼の上に輝かしく降り注ぐ。
私は本当の悲しみをまだ知らないのだと思う。
私はまだこちらからその映画を観ている。
痛みを知らずして本物の音楽は奏でられない。 リストの「愛の夢」も私の人生と共に弾き方が変わっていくだろう。
私の好きな曲⑧ エステ荘の噴水 「Liszt Les Jeux d'eaux a la Villa d'Este」