2016.07.17
さて、今日はいよいよソナタ形式について曲を使って具体的に説明をしたいと思います。
「形式」というといささか堅苦しく感じるかもしれませんが、何てことはありません。
「形式」は他者に確実にメッセージを伝える、そのための効果的な手順と考えてください。
例に使うのはM.クレメンテのソナチネOp.36-3の一楽章。
それでは、まずこの曲を三つの段落に分けてみましょう。
1)
最初から最後までざっと目を通して、まず視覚的に一番大きな区切りを見つけます。
そう、繰り返し記号のあるところですね。
まずここまでが第一段落。
2)
次に後半部分を丁寧に見ていきます。
どこかに「最初のメロデ」ィが見つからないかな?
おや、見つからない?
「最初のメロディ」は1オクターブ下で出てくるかもしれませんよ。
そう、繰り返し記号から10小節進んだ其処です。
これで一楽章が3つの段落にわけられました。
この段落にはそれぞれ名前がついています。
第1段落 呈示部
第2段落 展開部
第3段落 再現部
つまり最初の段落で、この曲はこんなテーマから成っていますよと呈示して、
次にそのテーマを繰り広げる、
最後にもう一度、最初のテーマを振り返りつつ曲を纏める、と。
よくできていますね。まさに
起承転結です。
では、もう少しだけ詳しく見てみましょう。
この
呈示部にはテーマが二つ(時にはそれ以上)あらわれます。
主人公が二人、男の子と女の子がいると考えてみてください。
クレメンテのこのソナチネでは
最初のテーマはハ長調でforte(強)、安定したバスの動きとも相まってなかなか堂々とした雰囲気です。
これは男の子?(もちろん姉さん気質の女の子をイメージしても大丈夫)
で、その
第一テーマが和音でジャン・ジャンと終わると(12小節)
次はdolce(優しい、甘い)で piano(弱音)の旋律に変わります。
うん、優しい風が髪を撫でていくみたい。巻き毛がくるくると揺れる感じ。
これは女の子?(あるいは繊細な美少年)
これが
第二テーマですね。
このように呈示部で紹介された主人公たちが、音楽を発展させていくのが展開部なのですが、残念ながらこのソナチネでは展開部はそそくさと通り抜け、すぐに再現部へと移ってしまいます。正直ちょっと物足りないですね。
とはいえ、この再現部への移行部分(展開部最後の3小節)は緊張します。
dim.(だんだん弱く)でソプラノの連打だけになった静かなところから再現部第一テーマの躍動感へ。
静かな夜のしじまに、陽の光が一筋に差し込む感じとでもいいましょうか。
第一楽章の中でも最も印象的な部分です。
さあ、この部分がうまく処理できればあとは、二人の主人公との再会を喜んで最後まで一気に弾いて大団円。無事ソナタ形式で書かれた第一楽章の幕となります。
(続く)