2016.03.24
ほんのり紅がさし
硬く結ばれていた蕾がいまや開こうかという春のひと日
京都国立近代美術館にて染織家、志村ふくみ氏の個展「母衣(ぼろ)への回帰」を見てきました。
1924年生まれ、今年91歳になるという氏の手により生み出された衣は
琵琶湖の風土、四季をそのまま織り込んだようで
その世界の深さと広がりに圧倒されます。
湖面に揺れ動く線状の波の輝き
岸辺の葦原
降り積もる雪
月の光の降り注ぐ湖面の清明
これらの衣は日本に自生する草木から
糸を染め、それを織り、仕立て上げられたとか。
またこの紬織りは、元来、農家の普段着として母から娘へ、
手から手へと伝えられた素朴な織物であったとか。
さりながら近代化とともに、見捨てられ
ボロとして忘れ去られそうになっていた時
青田五良氏や母、小野豊氏の尽力によってその技が残され、志村氏に継がれ、
さらには、本来は無名の手によって作り出される生活の芸、
いわば民謡であったその織物は
志村氏によって、民芸を超えたものつまり現代音楽へと再創造されたのだとか。
作品の美しさと、その美しさの背景にある思考の奥深さと生命力に触れ
ああ、また一人尊敬できる女性に出会えたとの思いに胸が満たされました。
この日は、京都から帰る車窓からみる春の夕暮れが
いつになく美しく、尊く感じられました。
丁寧な仕事をしていきたいと思います。