『For better or wose』 奈良美智さんの個展
2017.08.20
黒々とした水に半身をつけ、ズブズブと突き進む一人の少女。
睨みつけるような目。片手に握り締められた棒切れには揺らめく炎。
よく見れば、棒切れと思ったものは一本の絵筆でした。
the little judge
奈良美智さんの作品を初めて見たときの強烈な印象が忘れられません。
もう一度彼の作品に対峙してみたいと、豊田市美術館に足を運びました。
「For better or worse」と題された今回の個展では
彼の創作の原点となった風物、つまりレコードジャケットや慣れ親しんだ置物、書籍の展示から始まり、創作過程を伺わせるドローイング、代表作から最新作までと盛りだくさん。
人気の展覧会らしくひっきりなしの人出でしたが、
ゆったりと空間をもって配置された作品には一対一で向き合うことができ、途中には噴水や、お家(すべて作品)まであって飽くことなく楽しみました。
目の美しさに魅せられました。
見開かれた少女の瞳の中は、それ自体一つの宇宙のようで煌めく光と色彩に満ちています。
最新作では、その瞳の輝きが外部にまで溢れ出してきたかのように、髪に、空間に光がこぼれ落ちており、少女の絵ではあるけれども、もはや何かの化身と向き合っているようでした。
奈良さんの制作過程では、描き進めるつもりのない絵を描いて「見たことのない形」がでてくるのを待ったり、「ある程度やって壊すことで、自分の知らない力が引き出される」るままに制作に変更を加えたりするそうです。
あるインタビューでご自分の作品に対して、あたかも他人の作品を見るような、非常に客観的な口調で語っておられたのが興味深かったのですが、彼は自分の中にあって自分の知らないもの、未だ形にならないもの、意識の根元にあるものを見つけ出そうとしているのでしょうか。
今回のタイトルは「For better or worse」
良かれ悪しかれ、運命のままに
Betterなものになるか、worseなものになるか、、、。
手探りで、見出していく一筆一筆。心に炎をかかげて。
そんな好奇心と、壊すことをも厭わない勇気の先に、思いがけない可能性と未来が開けていくように思います。
奈良さん、57歳。
私も未だ未だ、変化を楽しんでみたいものです。
Betterなものになるのか、worseなものになるのか、、、それは分からないけれどね。