2016.11.13
前回に引き続き、シーモア・バーンスタイン著『心で弾くピアノ』をご紹介したいと思います。この書の第3章で語られるのは「集中」。
音楽に限らず、何かを身に付けるために欠くことの出来ない要素でありながら
その状態をつくり、かつ持続する事のいかに難しいことか!
集中力が最も発揮される場面というと、初見演奏、アンサンブルそして何と言っても演奏会でしょうか。
初見力と読譜力とは緊密に結びついているのですが
シーモア先生は読譜の苦手な生徒を前にして何が原因なのかを徹底的に分析し尽くします。
実際、分析(アナリーゼ)能力は音楽家にはとても重要な要素なのですが、シーモア先生はあたかも楽曲分析をするかのごとく、生徒と自分の所作を観察し、考え、答えを導き、レッスンで実践してみるのですね。
その結論は
「初見は、音楽家自身が気づいているよりはるかに多くの音楽的記憶力を活用している」のだとか。
私は「音楽的記憶」という視点で初見を考えた事が無かったので、これは新鮮な発想でした。
自身を振り返ると、初見力向上に最も効果的だったのは「伴奏」と「通奏低音」の経験。
伴奏が止まれば相手奏者に迷惑をかけると言うプレッシャーが良い具合に集中力を高めてくれました。
そして、通奏低音を学ぶことで和声の予測が出来るようになったんですね。
どちらも不器用な私には苦労の多い道で、若い時にはさんざん恥をかきましたが(笑)。
そして、いよいよ本番での集中力について。
ここでは
「先走りー集中力の大敵」について書かれています。
なんのことかって?
演奏会の最中、難しい箇所の手前で「先走って」緊張した途端、暗譜をど忘れしたとか、酷いミスタッチをしたとか、、、、というアレです。
シーモア先生は語ります。
「未来に現在への侵入を許すのは、集中していないことの証拠である」と。
その時、その一瞬の音に気持ちを集中させることが重要であると。
一瞬の心の揺れ、優越感や恐怖、様々なものが不意に集中力を途絶えさせ、演奏に思いがけない失敗を引き起こすのですね。
それは本番の怖さでもありますが、だからこそと言いましょうか
演奏会のその一瞬に込められた、磨き抜かれた一音
まさに珠玉のような一音に出会った時には心が震えます。