2016.07.31
夏は音楽祭シーズン。1990年に亡くなったバーンスタインを思い出します。この年の札幌PMFでのドキュメントは以前TVでも放送されました。
札幌で彼はPMFの若者達と音楽に情熱を燃やしていました。シューマンの交響曲の練習での彼は赤いハイネックのシャツに白いショールでおしゃれしていて、この年の10月に亡くなるとは思えないほど元気そうに見えました。
しかしそう見えたのはリハーサル中だけで、本番中は指揮の合間にとても苦しそうにしています。当時彼は不治の病におかされており自分でも死を覚悟していたそうです。しかし、その病をおしてでも伝えたいものが彼を来日へと突き動かしたのでした。
若い音楽家達から出てきた音はまさに命の躍動、生きている喜びに満ちていました。
彼の指揮はシューマンの音楽から若々しいエネルギーとチャーミングな魅力をひきだしています。「君たち、デートの時はこうするんだよ。」と、大人の男性が手ほどきをしているように、無意識でしょうか左手をポケットに突っ込んで指揮棒を振ったり、いたずらっぽく視線を使ったり・・・。舞台下手にあるカメラが指揮者の背後に必ず上手側のチェロの若者(リチャード・バンピング)をとらえます。彼がまさに若い力で音楽の喜びを体全体で表現しています。エネルギーに充ち満ちている彼は歓喜で大きく身を震わせて音楽と一体になっていきます。指揮台の老いたバーンスタインと対照的にチェロの彼は若く、いかにもレニーに恋の手ほどきを受けているデート前の少年のようです。音楽が命のバトンと共に感動を次の世代へ伝えていくということをカメラは象徴的に映し出していました。
バーンスタインの言葉です。
“残されたエネルギーと時間を「教育」に捧げる”
“命をかけて伝えたい音楽の真髄…音楽とはこんなにも人を惹きつける力がある”
命が尽きようとする瞬間まで音楽の素晴らしさを伝えようとしたバーンスタインを見るたびに、音楽の真髄について深く考えさせられます。