2024.02.15
子どものピアノの本によく載っている《さよなら》という曲は日本ではさようならの挨拶の歌ですが、元は《Winter, ade !》(冬よ、さようなら)というドイツの歌です。そして更にはなんとこの《Winter, ade !》にも《Schätzchen ade !》(恋人よ、さようなら)という元の歌があります。“愛しい人よ、さようなら 別れはつらいよ”という歌詞が付いており、その3番は
愛しい人よ、さようなら 別れはつらいよ
眼を赤く泣き腫らさないで
死でさえも僕らを引き離すことはないのだよ
愛しい人よ、さようなら 別れはつらいよ
となっています。“死でさえも僕らを引き離すことはない”という強い表現は、日本の《さようなら》とはあまりにも違う雰囲気です。
夫婦で彼岸に行く舟に乗ろうとするところを、船頭が妻だけを制止して「揃って乗れる人はめったにいないのだよ。」と言う物語がありましたが、どんなに愛し合っていても夫婦が同じ舟には乗れるわけではありません。
ところがご夫妻でピアニストだった私の恩師は、まさに同じ舟に乗って旅立たれました。お二人は、若くてご結婚され、揃ってドイツへ留学、帰国されてからは演奏活動と共に多くの生徒を育てられました。二台ピアノを演奏活動の軸とされて、日本人作曲家の作品の初演も数多く務められました。すべてにおいて嘘のない誠実な方でした。
奥様の口癖は「主人とも話したんだけど…。」「二人で考えたんだけど…。」でした。ピアノのことで悩む私を励ましてくださったお手紙にも“二人で”という言葉が便箋のあちこちに書かれていたほどです。どんな事でもお二人で相談されながら、お互いを尊敬し信頼し合い、ピアノのために捧げられた人生でした。
“死でさえも僕らを引き離すことはない”という奇跡を何が起こしたのかは分かりません。音楽の神様の計らいでしょうか?私はそのあたりの能力は皆無なので分かりません。
ただ、奥様は「主人なんか縦のものを横にもしないのよ(笑)あなたのとこはどう?」なんて笑って話されていた普通のご夫婦なのに、大勢いる門下生の誰もが先生ご夫妻は普通の人には無い崇高なものをまとっておられたことを感じています。
《さようなら》は初心者のテキストによく載っている曲です。ドイツの曲には他にも《ぶんぶんぶん》《こぎつね》《かえるのうた》《かっこう》などたくさんありますが《さようなら》は私にとって特別な曲です。
熊本市
東区健軍ハートピアノ教室