2024.01.14
ステージの袖でドキドキしながら「神様!どうかちゃんと弾けますように!」と、いつも苦しい時の神頼みのわたくしですが、年末の除夜の鐘や年始の雅楽にはさすがに厳かな気持ちになります。
雅楽のゆったりとした音運びと日本独特の楽器の響きは独特で、知人がフランス留学中「日本の伝統音楽ってどんなもの?」と、聞かれて雅楽を聴かせたらとても驚かれたそうです。
近くの健軍神社でも、元旦の0時を迎える瞬間に大勢の参拝者の歓声が上がり雅楽が始まります。新しい年を迎えるまぶしさとその音色は、自分が日本人だということを強く感じさせられる瞬間です。いつか雅楽の生演奏を聴いた時も、とても神秘的で何か独特の雰囲気を感じたのを覚えています。雅楽奏者の友人がそこで奏でるのはお箏と太鼓でした。ひとつひとつの音の出し方がとても難しいと語っていた彼女は、平安の衣装をまといそのこだわりの音色と共に崇高な光に包まれていました。
さて、奈良春日大社の宝物殿に《蒔絵箏》(まきえのこと)という国宝の美しい箏があります。全体は黒色の漆が塗られそこに水の流れる様子、その周りには草花やおしどり、蝶などの装飾が金、銀、銅粉、貝殻を使って豪華に施されています。弾いた形跡がないのは、神様が奏でるために作られ奉納されたからだそうです。人々がその神様の箏を見る時、それぞれの心の中に神秘的で美しい神様の奏でるお箏の音色を様々に想像するのでしょう。
また、そこで20年に一度行われる《式年造替(しきねんぞうたい)》と呼ばれる国宝や社殿の修復をする儀式の神秘性も日本人の原始の感覚をかきたてます。
その儀式の日、神様は神職の「ゥヲー」というランダムな声(合唱)に包まれて闇夜を移動していきます。
見てはいけない神様の存在を、音程も歌詞もない大合唱の「ゥヲー」が動物やすべてのものにその存在を知らしめるのだそうです。「ゥヲー」は空気を震わせ、群れをなして飛ぶ鳥のようにその空間を音の響きで形成していきます。
ピアノも響きが感動と共に立ち上っていき、見えないけれど確かにそこに音楽を形成していきます。指で鍵盤を抑えると、指先から入ってくる響きが身体全体に伝わり心まで震えます。楽器演奏の醍醐味のひとつは、音の振動に包まれることです。
そして悲しみも喜びもそして畏れも、様々な心の動きを音の振動(音楽)は表してくれます。ピアノも声も、あらゆる楽器の振動が人の心を揺さぶり感動させます。
“音”そして“音楽”とは人にとって昔から本当に大事なものだとあらためて思います。
熊本市
東区健軍ハートピアノ教室