2023.11.30
音楽は数値ではなく人の感覚で受け取るものなので、よく非現実的なことが起こります。そんなに速く弾いていなくても速く聞こえたり、またその逆だったりと、聞き手の主観によって聞こえ方が変わります。
さてホロヴィッツ(1903-1989)はロシアの有名なピアニストです。しわがれ声のちょっとおちゃめなおじいさんなのですが、いったんピアノに向かうと、彼の指先から生まれる音は鈴を鳴らすように透明で美しい思えば、突然ものすごい爆音を叩きつけて恐怖をつきつけてくる、といったように意のままにピアノを操る天才でした。
彼の弾く自身編曲の《カルメン幻想曲》の凄まじさはテンポという概念すら忘れさせてしまいます。
聴き比べて初めて気が付くのですが、実は現代の若いピアニストたちの方がホロヴィッツより速いテンポで弾きまくっています。
それなのになぜかホロヴィッツの方が速く聞こえてしまいます。(これはまさに私の主観です)
彼の研ぎ澄まされた精神から出てくるヒステリック一歩手前のピアノの音と、最高級のテクニックのバランスをスリリングにとっているのは、膨大なレパートリーを手中に収めている才能と自信…。
しかも映像を見ると、ホロヴィッツの額から何か発せられているように見えるではありませんか。人の集中力は額のあたりから発せられるそうですが、これこそまさにそれなのでしょうか…。
額から出ているそのパワーがすべてのものをなぎ倒し、ホロヴィッツの音楽の感性のなすがままに操られてしまうのでした。天才の演奏とは、好き嫌いを超えたものすごい高みにあるので、その説得力に聴き手はねじ伏せられてしまいます。(これも私の主観です)
レッスンでも、アグレッシブな表現が要求される時には、例としてこの話を身振り手振りを入れながら解説してひとしきり爆笑です。あまりにも真面目に力説しすぎると変な先生と思われそうなので、ささっとおもしろく言うのがコツでしょうか(笑)
例えを使ったりジェスチャーをオーバーに交えながら説明したりすると、生徒さんは爆笑しながらもすう~っと理解してくれます。
熊本市東区健軍ハートピアノ教室