2023.11.15
ドイツの作曲家リヒャルトシュトラウスの作品に『万霊節』(Allerseelen)という歌曲があります。(詩:ヘルマン・フォン・ギルム)『万霊節』とは11月2日に行われる、日本のお盆とよく似た風習です。
テーブルに花を飾って恋人に語りかけます
“もう一度愛を語ろう、かつて5月にそうしたように”
“たった一度でいいから君の甘い眼差しを向けてくれないか
かつて五月にそうしたように”
と、ここまではさりげない日常を描いた愛の歌のようです。優しく美しいメロディーが穏やかに流れます。しかしそのあと
“今日は1年に1日、死者が自由になる日、僕のそばに来ておくれ、もう一度君を抱きしめるために、かつて五月にそうしたように”
音楽はせきを切ったように溢れだし、恋人が黄泉の国の人だったのだということがここで分かるのです。音楽全体は光輝く五月のように穏やかなので、歌詞の意味とのコントラストが悲しさを強く印象付けます。
11月は冷たい風が吹く日があっても、晴れた空に七五三の子供たちの元気な声が響くと、ほんわかと心が温かくなります。ところがドイツのこの時期は、晴れの日の多い日本とは大違い。夏があっという間に終わり、短い秋のあとに陽が極端に短い冬を迎え、どんより暗く陰鬱な曇り空に支配されます。それは春が来るまで長く続きます。その上気温も桁違いに低いときています。
そんなさびしい冬の万霊節には、死者の魂が家族の元に帰って来るとされています。ヨーロッパでも日本のお盆のようにお墓参りをして故人をしのびます。昔は火で焼かれる死者のために墓石に聖水をふりかけ、帰ってくる目印の蝋燭を灯したそうです。
リヒャルトシュトラウスの『万霊節』はWie einst im Mai.(かつて五月にそうしたように)の歌詞を最後に二回繰り返します。一回目は激しく、二回目はあきらめたように静かに歌われ曲を閉じます。
五月の幻影は消え去り、あとには厳しい冬の現実と悲しみが押し寄せてきます。
Stell auf den Tisch die duftenden Reseden,
Die letzten roten Astern trag herbei,
Und laß uns wieder von der Liebe reden,
Wie einst im Mai.
Gib mir die Hand, daß ich sie heimlich drücke
Und wenn man's sieht, mir ist es einerlei,
Gib mir nur einen deiner süßen Blicke,
Wie einst im Mai.
Es blüht und duftet heut auf jedem Grabe,
Ein Tag im Jahr ist ja den Toten frei,
Komm an mein Herz, daß ich dich wieder habe,
Wie einst im Mai.
Wie einst im Mai.
熊本市東区健軍ハートピアノ教室