2022.11.28
秋色になっていく風景の中にはパンジーが美しい。たくさんの色の組み合わせのパターンがあってお店で選ぶ時からわくわくする花。日本語では“すみれ”。もともとは春の花らしいが秋から冬に出回る。イタリア歌曲の定番にも “菫”(すみれ)という曲がある。作曲はスカルラッティ。歌詞は短く何度も繰り返される。
露に濡れた 甘い香りの
優美な菫よ
あなたは恥ずかしそうに葉っぱの間に半分隠れて
私の欲望をとがめる
イタリア歌曲には恋の曲が多い。歌詞には「貴女の眼差しが私を殺し消滅させるがいい」「私を好きになってくれないなら死なせて」「矢を受け鎖に繋がれようともあなたから離れたくない」といった過激なものが多い。“菫”はまあおとなしい方だが、やっぱり恋の歌だ。
イタリア人作曲家スカルラッティは、ポルトガルで王室礼拝堂の音楽監督となり、そこで王女マリア・バルバラの音楽教師を兼任。その後王女の嫁ぎ先のスペインへ同行した。彼女のために作曲されたたくさんのソナタは有名で、抒情的なものから遊び心溢れる作品まで様々。彼の親しみやすい性格や、王女に対しての優しさを感じさせる。
“菫”もスカルラッティらしい軽やかさを持っている。この曲は声楽を学ぶと必ず歌う曲のひとつで、今まで何度も伴奏させていただいたこともあり、歌い手の方々の表情や歌う口元まで思い出される。高校生は可愛く歌い、大人は余裕のある声であしらうように歌う。歌詞に反復が多く、出てくるたびにリズムのタイミングが少しずつ違うので暗譜が難しい。
さて、早朝の庭に出ると、まだ夜露の湿度の残る土から晩秋独特の匂いがする。菫は寒さに強く、凍っても元気に咲きぱっとその場を明るくしてくれる。その姿はまさに可憐な少女のようで、この歌曲のように葉の間からこちらをのぞいているようだ。
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室熊本