2022.09.15
ピアノ専攻のわたくしでも意外と歌う場面はたくさんあります。声楽の伴奏を一人で練習する時や、バッハの多声部から抜き出して
ブブレンする時…。レッスンでも、バッハの多声部の旋律の弾き分け方の説明で声色を変えて熱唱!なんてことも。好きな曲を弾き語りするのも楽しいですね。“歌”は音楽の基本です。
さて、無意識に口ずさむ鼻歌。そこにはその時の気分が無意識に出てきたり、レッスンでやった曲やテレビで流れていた曲が耳に残っているから歌っていたり、といろいろです。そして面白いことに、気が付くとだいたい曲の決まった個所を歌っているようです。
わたくしの最近の鼻歌はどうもドビュッシー作曲のピアノ曲《レンとより遅く》のことが多いようです。この曲の楽譜は、ドビュッシー小品集の後半に他の有名な組曲よりも地味にさりげなく入っている、3分半くらいの短い曲です。♭6個付く変ト長調。最初は敬遠しがちですが、弾いてみると指なじみがよく弾けば弾くほどしっくりします。これはドビュッシーが鍵盤を実際に触りながら作曲したということでしょうか。
この曲をレッスンで生徒さんに紹介すると最初は♭の多さにぎょっとされますが、出てくる和音の魔法のような響きに惹かれてついつい練習していくうちに、外すことのできないレパートリーになっていきます。
出だしはゆらゆらと同じ音型を行ったり来たりする3拍子。恋人同士のダンスのようで気まぐれなテンポの揺れは、鼻歌にピッタリです。25小節目にくる大きな波は心の動き。高い音に上がっていくのにすぐにためらいがちに降りてくるメロディーライン。言いたいのに言えないもどかしさを心に隠しているようです。
いつも歌うのは出だしからこの駆け上って降りてくる25小節目のあたり。歌詞がないのでなぜか私の口をついて出るのは「ナナナ~」。鼻歌なので声に真剣にビブラートは付けず、AIのように平坦に歌うのですが、なぜか心のつかえが取れてスウ~っときれいな空気が身体に入ってきます。
たくさんの素晴らしい録音を聴くことができますが、ドビュッシー自身の演奏は自由自在でとても気まぐれ。同じ音型がぐるぐる回るようなところでは絶妙にテンポを揺らして、まるでフランス語で語りかけられているようにうっとりします。
しかし鼻歌であってもそのあとに続く伴奏部分もしっかり歌ってしまうところは、ピアノ専門がゆえの難点であります。
「ナナナナナ~~~。チャンチャン♬」
HERAT PIANO
熊本市東区健軍
ハートピアノ教室熊本