2020.11.30
子どもの頃風邪で病院に行くと、先生が聴診器を私の耳にはめて胸の音を聞かせてくださったことがありました。自分の身体なのに、なかなかその内部の音を聞く機会はないものですが、自分の心臓の音と肺が呼吸する音は想像していたものとはまるで違うものでした。そしてそれは、何か厚手のもので遮られたようにくぐもった音をしていて、光に決して照らされることのない深海のような別世界から聞こえてくるようでした。
医師ジョルジュ・デュアメルの著書『慰めの音楽』には“ベートーヴェンの交響曲第四番変ロ長調のアダージョは、時には弦楽器で、時にはティンパニーで、また時にはオーケストラのほとんど全力でリズムをつけた、或いはデリケートな、或いは力強い鼓動のようなもので伴奏されているが、それが医者から見ると、人間の心臓を聴診したときの音の再現になっているのである。”と書かれています。
そんなことを思い出したのは医師を目指しているB子ちゃんがレッスンでダンパーペダル(一番右側のペダル)を踏みながら「これって心臓の音に似てる。」と言ったのです。なるほど。確かに足をかくんかくんと上げ下げすると“ドックン、ドックン”と心臓の音がします。彼女の将来の夢の話に花が咲きました。ペダルに油が足りなくてキュッキュッといっている音にも気が付かないで弾くことばかりに気を取られている自分を反省。
またある日は、大学生のCくんがタッチの練習をしていてそっと鍵盤に触れながら「ハンマーが弦に触れるか触れないかくらいのところでギターの音がする。」と言います。確かに。
他にも、プリペアードピアノという奏法では、金属や木などをピアノの弦の上の置いて、わざと音色や音高を変えて不明瞭な音で音楽表現をします。ピアニストのファジルサイも、ピアノの内部を使って斬新な多種の音色を取り出します。
これは私の先生に脱力のエクササイズとして習ったのですが、ドレミファソを五本の指でいっぺんに鳴らし、そのあと親指から(小指からでも)順番に指を上げていくと、なんとオルガンの音がします。そのミラクルな音に耳を開いて身体に無駄な力を入れないように、ひとつひとつの指を自然に上げていきます。サン=サーンスのピアノコンチェルト第5番にもオルガンのようにピアノが響くところがありますが、本当にピアノからは様々な音が聞こえます。
さてここで問題です。この練習で、指を順番ではなく、最初に親指を、次に人差し指と中指をいっぺんに上げ、最後に薬指と小指を一遍に上げる練習方法もあり、この練習をするとなんとあの有名な交響曲が聞こえます。それは何という曲でしょう?
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室
答え:モーツァルトの交響曲第41番ジュピター第4楽章のテーマ(聞こえないはずの4つ目のミが鳴っているような錯覚??)