2020.02.28
ショパンは自分の作品には常に推敲を重ねていたので、イギリス、ドイツ、フランス、と楽譜を売る出版社が変わるたびに渡す楽譜の細部が微妙に違いました。その結果現在我々が目にするショパンの楽譜は、版によって細かいところで異なっており、彼の最終的な意図が見えづらく、どの版を信じればよいのか困ってしまいます。
ノクターンの中でも一番有名なop.9-2は、ウィーン原典版では二種類の楽譜が載っています。即興的なヴァリエーションで彩られている異稿はショパンがお弟子さんに合わせて書いたいろいろな装飾的フレーズが記されており、彼の優雅な演奏を伺わせます。
ショパンの作品はピアノの“音色”を学ぶのに最適です。特にノクターンは左右の手の役割がはっきり分かれていて、バランスをとる練習にもなります。また、メロディーには単音が多いのでコントロールしやすく、奏でる音域はペダルを踏みっぱなしでも濁らず美しいニュアンスで混じり合います。正しく打鍵していれば、その優雅なメロディーラインはピアノからうっとりするような透明感を引き出してくれます。このop.9-2のノクターンを勉強すると生徒さんの音が急に光りだし音が格段に良くなります。
また、ショパンは楽譜自体の絵画的効果も狙って譜面を構成していました。彼の自筆譜は訂正や塗りつぶした殴り書きのように見えて、実はその音楽の印象をそのまま目でも感じられるように配慮されています。まさに音符を表記しながら絵としても音楽を表現するものとなっているのです。彼自身も、自分の独特な記譜法からなる楽譜を「写譜家に任せたくない。」と言っています。
ところで先日、近所にお住まいの画家の個展へ伺い、いつも穏やかなお人柄のその方の作品の中に、普段は奥に隠された燃えるものを発見しました。激しい筆のタッチには長年その道を追求してきた人が持つ芸術に対する執念も感じられました。
「展示するぎりぎりまで手を加え続けたので、まだ絵具が乾いてないところもあるんですよ。」とのこと。なんと制作のお疲れから少し体調もこわしておいでです。しかし、芸術家なら誰でも自分の表現できるものを余すことなく作品に投入しようと命をすり減らすことこそが喜びなのです。
ショパンの作品にもここで完成、という終わりはなく細部の修正は生涯行われました。そして虚弱な肉体からは、美しい音楽の陰に激しい魂の叫びも込められました。画家とすべての芸術家が私の中でショパンと重なりました。
追記…ショパンの罹患した病気が完治するようになって久しいですが、今我々が遭遇している恐ろしい試練は現代社会を一体何処へ連れ行くのでしょうか…。
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