2018.03.17
私が理想とするのは音楽の世界を旅しているようなレッスンだ。
イメージの中で、ある日生徒さんと私は素晴らしい曲の入り口の門の前に立つ。扉を開けると目もくらむような輝く音楽が我々を呼んでいる。
その中を進む。暖かい風が吹いている時もあれば険しい山道にくじけそうになったりする。生徒さんはまだ一人ではその中を歩けない。
譜読みができなければ手伝う。しかし、今苦しんで読んでいる音が音楽として鳴ったときどんなに感動的かを分かるように弾いて見せたり、和声の中での役割を説明したりする。並んでいるのはただのインクの染みではなく、ショパンならショパンとして、バッハならバッハとして姿を現すのだということをイメージできるように。
美しい風景を見ながら音楽の旅をするのは楽しい。自らの指がその美を作り出しているというアメージングな体験は音楽の喜びを伝える。
また、いい教師は生徒の演奏に厳しいダメ出しはするが、生徒自身に対して常に心からの励ましを惜しまない。それは行く道の灯となる。私が今までピアノを弾き続けてきた中で、師事した先生方の励ましがどんなに心の支えになり自分を追い込む練習の際のモチベーションになったか分からない。
部活動が終わってから夜遅くレッスンに来られる生徒さん、難しい曲に悲鳴を上げながらも曲の魅力に魅せられて食らいついてくる生徒さん、コンクールの機会を必ず利用して技術アップを目指す生徒さん…。皆さん真の音楽を目指している姿は本当に美しく、私も心からの応援を送りたい。
私は街の小さなピアノ教室の講師だが私の中を伝えるべき音楽が河のように流れるのを感じる。私の中を通って次に伝わるもの、それは大学時代の恩師が「伝えていくことが大事」とおっしゃったことだ。
だから私は毎日ピアノを練習し、本を読み、素晴らしい音楽に耳を傾ける。自らも求めてレッスンを受ける機会を探す。素晴らしい指導者や演奏家を間近に、質の高い技術を学ぶのは若い人だけの特権ではなく年齢を問わず幸せな瞬間だ。
私はレッスンすると同時に受け手でもある。どちらの立場にも立ちながら、河のように音楽が次の世代へ受け継がれていくのを感じる。
音楽とはただ音が鳴るだけではないということを私は知っている。音楽には言葉以外の強力な伝達性がある。音楽の向こうには無限の宇宙が広がっている。
今日も私は生徒に音符の読み方を教えながら一緒に音を読む。鍵盤を操る方法や腕の楽な動かし方を伝える。フォルテにも幾通りもあることを弾いて見せる。
音楽の海原に漕ぎ出すには舟をこさえなければならない。空を飛ぶには羽が必要だ。
いつか生徒さんが音楽の魅力に惹きつけられて、一人でその世界を自由に旅することができるようになってほしいと願いながら…。
熊本市東区健軍
ハートピアノ教室