私の好きな曲⑬ 美しい五月に「Im wunderschönen Monat Mai」
2017.05.27
シューマン作曲の歌曲集“詩人の恋”第1曲目。
“美しい五月に”
美しい五月に、
すべての花のつぼみが開き、
私の心の中にも
愛が花開いた。
美しい五月に、
すべての鳥が歌い出し、
私は彼女に打ち明けた
私の憧れ、私の望みを。
高校の音楽の授業で原語で歌いました。田舎の普通高校に通う私は、言いにくいドイツ語と格闘しながらも歌に沿って流れるそのピアノの美しさに心を奪われたのでした。音大に進学して売店でシューマンの歌曲集の楽譜を見つけると、うれしくなってすぐに購入して“美しい五月に”のピアノパートを何度も何度もうっとりと弾いたものです。タッチやペダルに細心の注意をはらって半音の何とも言えない美しい影を表現していきます。
ドイツと熊本では五月の平均気温は5~6℃違い、最近は猛暑日を記録してしまう日本列島に辟易とするばかりですが、しかしふっと早朝の気温が十分に下がって、夜露が十分に土や葉や薔薇のつぼみを優しく包んでいるのを感じると、「ああ、この五月の空気は…。」と、この曲を思い出すことになります。
そんな日は太陽が昇ってきても部屋の中はひんやりと夜の冷気を保っていて、外のキラキラした陽ざしに照らされた新緑の緑が単に気温の差だけでなく心の内面の光と影のコントラストさえ映し出しているようです。
厳しい冬の寒さがやっと去り、すべてのものが目覚め動き出すこの季節におずおずと愛を打ち明ける、という喜びに溢れているはずのハイネの歌詞を、シューマンはほの暗いどちらかというと悲しみの方が色濃い音で彩り、 ピアノが奏でる分散和音はどこへ行くとも分からないようにさまよいます。
五月の日陰の冷たい空気のように曲全体に影のようなものが覆っているのですが、それは愛や生のはかなさのようでもあり、愛する人との距離を縮めたい時の何とも知れない不安とためらいのようでもあります。強いけれど慎み深い愛を刻み込もうとする旋律はあまりにも悲しく、和声の中をさまよい、どこへ消えていくかも知れない曲の閉じ方は、歌曲集“詩人の恋”第2曲へと誘います。
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