2017.03.31
「せんせ~ってピアノのうまい下手って正直言って分かるんですかぁ~?」
中学生のB君が声変わりしたばっかりの声で大人っぽい表情を作りながら聞いてきました。 大人っぽく構えていても敬語が使えるようになってもまだまだ考え方は子供…。発想の無邪気さとちょっとだけ鈍いところがなぜか彼の魅力になっています。
「すごいんですよ、指がものすごく早く動いて、バーって弾く感じ。」彼は動画でいろいろなピアノの演奏を見て、指がばらばらと動くものに感動したようです。
ヴィルトゥオーゾ(技巧的)に心を奪われがちですが、それ以外に音色やフレーズの感じ方、曲への理解度などいろいろな要素で音楽は作られています。そして作曲家の意図をくみ取った演奏者がそこから何を伝えたいかが大事なことです。
音楽に対する考え方をいつも問われるのはコンクールです。同じ曲が何十人も並んでいたり、ほとんど現代曲の管楽器部門など、一体何を基準にしていいかが分からなくなりそうです。メカニック的に完璧にしておかないといけないのはもちろん、大事なのは演奏でいかに強いメッセージを発信するかなのですが、周りのコンスタントより際立っていたいという気持ちが強すぎると押しつけに陥ります。故・中村紘子さんが「弾き始めをぱっと聴いてなかなかいいと思っても、その人が何曲か弾いていると過剰になってきて、もういいわっ、ていうこともあって難しい。」とおっしゃっていました。
フランスにある芸術家だけが入れる老人施設のドキュメントで聴いた、高齢の女性ピアニストのバッハのパルティータ第1番は、うまい下手を超越した感動がありました。
テンポは遅めです。年齢的にも指は回っていないところが目立ちます。しかし1音1音を小さな大事なもののようにこちらに差し出してくれるのです。装飾音符が震える度に空間に漂う高貴な調べ、和声の移り変わりに沿って光が当たったりくぐもったり…。遠くない死を待ちながら弾くそのバッハには心を動かさずにはいられませんでした。
B君はまだ指の動きにしか目がいきません。音楽の何を聴くかはまだまだこれから。いろいろな経験を通してぜひ音楽の素晴らしさが分かるようになっていってほしいです。
熊本市東区健軍 HEART PIANO ハートピアノ教室