2015.11.01
イェルク・デームス(Jörg Demus)と言うピアニストをご存知でしょうか。
1928年12月オーストリア生まれといいますから、今年87歳。
正直、まだ生きていたの?
というか現役で演奏していることが自体が驚き。
そんな往年の名ピアニストの演奏会に行って参りました。
梅田に立地する、客席数300ほどのフェニックスホールは
演奏者の呼吸を身近に感じられるサロンのような雰囲気で私のお気に入りです。
そこに現れたデームス氏。
丸まった背中、おぼつかない足取り、、よ、よれよれ?
もう90歳手前だもんな、大丈夫かいな。
という気遣いは演奏が始まるやいなや吹っ飛びました。
オーストリア生まれの彼のレパートリーは
ハイドン、モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェン、そしてブラームス。
暖かな音色はそれぞれの作品によって見事に変化していきます。
鼻歌のようなハイドン、軽いモーツァルト、
どっしりと身体の底に落ちていくベートーヴェン、ブラームス
そしてシューベルトの歌!
意味のない音は一音たりともなく、テンポの揺らぎは絶妙で。
それは、まるで味わい深い米朝師匠の落語のようでした。
派手なパフォーマンスは一切なく
心から音楽の湧き出るままに
一音一音を紡いでいく。
ウィーンの街、その街に生きた音楽家たち、
さらにはデームス氏が共演した名歌手たちの気配をも感じるような
過去と現在がこの場にあるような不思議な感覚に襲われました。
ベートーベンやブラームスの悲しみは
彼の演奏の中で浄化されて全ては幸福へとかわっていきました。
こういう演奏を聞きたかった。
こういう音楽を目指したかった。
久しぶりに音楽の原点に触れたように思います。
国際コンクール受賞に今をときめく若い演奏家たちを応援したり
外国人有名ピアニストの華やかな演奏にエキサイティングするのも
楽しいことですが、
時には年齢を重ねた奏者の滋味深い演奏にじっと耳を傾ける。
そういう、幅広い音楽文化が育っていけば良いなと思っております。