2016.12.25
セイモア・バーンスタイン著「心で弾くピアノ」の第Ⅲ部では公開演奏をする場合の問題点を取り上げています。とくに第10章では暗譜の実用的な方法について多くのページが割かれています。
暗譜!
舞台の中央、一人きりでピアノの前に座り暗譜が途切れた時の恐怖ときたら。
初めて舞台で立ち往生したのはなんと音楽高校の受験。
忘れもしないバッハのフーガ。
最初の主題を弾き出したまでは良かったものの数小節で迷子に。
どの音?どの高さ? 焦りと動揺で息のつまるような数分?数秒?
なんとか弾き通しはしたものの、もはや音を追うだけで精一杯。
もう悔しくて、悔しくて
この何ヶ月かの努力が全て無駄になってしまったと心底落ち込んだものです。
実はこの恐怖体験は長く尾をひき、
後々、もう二度と人前で暗譜の演奏しないと思い定めさせたものです。
未だに夢にでてくるんですよ。
明日が試験なのに暗譜ができていない夢!
実は少なからずのピアニストがこの問題に悩んでいると聞きます。
本番のプレッシャーで不意に暗譜が飛ぶという問題。
この恐怖のど忘れをいかに防ぐか。
シーモア先生は「自動パイロット」とそれをバックアップする「意識的な記憶」が有益だと書きます。
「自動パイロット」とは、シーモア先生独特の表現ですが繰り返し練習を重ねることにより、条件反射的に音楽を奏でられることを指すようです。意外とこの方法で暗譜をしている方は多いのではないでしょうか。
初めは譜読みをしながら訥々と弾いていたものが、次第に滑らかになりミスタッチも減っていく。その頃には譜面を見なくても身体が勝手に反応してくれるようになる。それは自由で楽しく努力の実った喜びを存分に味わえる時間です。
しかし人前で弾く時はここで安心してはいけないのですね。
身体で覚え混んだことを、意識的に頭に刻みつける作業をすることで暗譜は確かなものに、揺るがないものなります。楽曲の分析が必要となります。
いくつものやり方があるのですが、一つご紹介すると「左手パートを右手とは独立して覚える」。
これはかなり効果的です。
もし暗譜で悩まれている、恐怖におののいているという方は是非お試しください。
そして、年を重ねられた方にはシーモア先生からの勇気のわくメッセージを。
「年配の生徒のなかには、20年余りも眠っていた記憶力が、まったく予想もしなかったほど生き返った例がある。」
また彼の最年長の生徒の言葉を。
「音楽を忘れずにいるのことは、自分の歳からの逃避ではありません。青春の回復なのです」
私も久しぶりに暗譜に挑戦したくなりました!