2016.01.28
「クリエーターであることは大変よ。批判的じゃないといけないもの。“ああ、きれいね”ぐらいしか考えていなかったら庭は美しくならない。」
ベス・チャトーは荒れ地に庭を造ったことで有名なイギリスの園芸家で、植物に一切の水やりをしないで素晴らしい庭を造る人だ。「自分の力で育っていける植物を育てる。」を信念として画期的な庭を作り上げてきた。
その厳しい考え方は私がやっているピアノの世界にも通じるものがあってふと80歳になられた大学時代の恩師を思い出した。
恩師は、私が卒業の時「また来ても学生のときみたいに、いちいちここはどうこうといったような普通のレッスンはもうしないわよ。あなたが準備してきたものを一観客として聴かせて頂きます。」と、おっしゃった。
音楽家として自立した勉強を、という先生の方針。勉強とは自分で見つけていくもの、もちろん他者に意見を求めることはあっても結局は目指すものにたどり着けるのは自分の力だということが先生の教えだ。私がどんな準備をしてどれだけ弾いても、少しの感想と助言、そしてまだまだ音楽という大きな宇宙の一部分に触れたにすぎないというお言葉をくださる。
どうしても八方ふさがりになって電話するととても親身に話を聞いてくださり、元気づけてくださる。一言が100冊の書物よりも心に響く。そんな先生の存在そのものが私を独りで音楽に立ち向かう勇気を与えてくれる。自分の力で音楽の世界を切り開けという先生の教えが私の奥深くに眠る力を呼び起こす。
「本当の喜びや満足は残した業績ではなくてそれを実現しようとする過程にあるということ。」
これはベス・チャトーの言葉だが、恩師に言われている気がする。
「ガーデンデザインはしゃべることを覚えるようなもの。個々の植物を単語のように覚え2,3の単語の組み合わせからフレーズを生み出す。いくつものフレーズが文章となり、やがては物語へと発展する。」
庭作りはまるで音楽だ。
そしてベスへの究極の質問。
あなたは庭に何を描きたいのですか?という質問に彼女は
長い沈黙…
そのあとゆっくりと答えた。
「私と植物とすべての人にとって意味のある絵を描きたい。」
意味のある絵、意味のある音楽。目指すものはまだまだ遥か・・・。
私もこの年になっても新たな発見の連続。恩師の言う大きな宇宙のような音楽と毎日向き合って時には感動をおぼえたり時には自分の演奏の無力さに打ちひしがれたり。しかしいつの日か聴いた人に何か意味のあるピアノが弾けるようになりたい。
「そして、あなた自身が見つけたもので次の世代をしっかり育てていきなさい。」
という偉大な恩師の言葉を思いながらベスの庭の写真を眺める。信念に裏付けられたものには感動以外のものは存在しない。
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