2014.12.01
人間ドックの日。
朝から絶食の状態で肺活量を測る。
何も食べていないのに腹の底まで吐ききれといわれる。
「はい!ふうぅ~~~!!!」
私「ふうううううう~!!!」
「もっともっともっともっと最後まではいてはいてはいてえええええぇ~!!!!!!」
頭の中が白~く、いや、銀色になりながらツィガーヌが流れてきてしまうのは私だけでしょうか…
この曲を聴くと吐ききってしまう。奥の奥のいちばん深いところから音楽を放出したいと思ってしまう・・・この曲の冒頭にはおなかの底から吐ききって出てくるような音楽があると思います。
1924年の作品「ツィガーヌ」は「ロマ」を意味するフランス語。ハンガリー出身のイェリーというヴァイオリニストから得たハンガリー音楽のイメージから、ハンガリー・ロマの民族舞踊であるチャールダーシュの形式で書かれています。彼女にハンガリーのイメージを弾いて欲しいと何回も何回も頼んだラヴェル。いろいろなフレーズを弾かせているうちについに朝を迎えてしまったとか。
ヴァイオリン&ピアノで演奏されることが多いようですが実際の題名は pour violon et piano Lutheal 。 リュテアルとは1920年頃にG.クレタンスと言う人が発明した楽器で、リュート(Luth)またはチェンバロに似た音色が特徴です。リュテアルはグランドピアノに4本のストップを組み込み、それによって音色を変化させることができ、普通のピアノのような音色も出れば、チェンバロのような音色も出るようで、この楽器にいち早く注目したラヴェルは、「ツィガーヌ」発想前の1920年から手がけた歌劇「子供と魔法」で採用します。楽器がない場合には、アップライト・ピアノの弦とハンマーとの間に紙を設置して演奏するアイデアを、ラヴェル自身が提案していますが、この発想は、1940年にジョン・ケージが発明したプリペアド・ピアノの先駆けとも言われます。
時にはチェンバロの様な音で時にはピアノの音がする、という不思議な楽器リュテアル。CDでリュテアル版を初めて聴いた時のショックは忘れません。リュテアルの音色は一種独特、異常な感じで、狂気のような常ならない心情を表現できるのです。胸をかきむしられるような感じ…!リュテアルでなければできない表現にラヴェルがこだわった訳が分かります。
ツィガーヌの表現するものは、無意識の中の心の叫び、泣きの狂気、そして深層心理に潜む人間の原始にまでさかのぼる畏れのようなもの…ラヴェルは一晩中イェリーの弾くロマの調べを聴きながらあらゆる人間の感覚を呼び覚ましていたに違いありません。天才だけがそこにあるはずだけれど凡人にははっきりと知覚できないもの、形として現すことができないものを混沌とした感覚の渦の中からすくいとって音や絵で表現することができます。ある時は霧散してしまったものを風の中からつかみとるように、またある時は深海の暗黒の中にうごめく見たこともない生きものを光に頼らずにすくい取るように。
吐ききった息のその終わりまで表現するようなツィガーヌ。ふううううううううう!表現と息遣いはとても密接です。吐ききることで心情をあますところなく表現する…
そう。あの桃太郎侍様も「ふううううううっ」という息遣いですべてを表現しているではありませんか!!
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