2014.08.11
2014年8月。道路沿いの樹にはびっしりと蝉がとまっていて、両側からものすごい音の洪水です。
思わず立ち止まって目をつぶる私を、通行人が不思議そうに見ていきます。ふと、どこからかピアノの音がしてきます。そして手をたたく音…?!
パチ、パチ、パチ。(ゆっくりとした拍手)
「とても良く弾けたわ。音楽の心を表現できた素晴らしい演奏だったわ。今日でレッスンは終わりよ。」先生の目には感動の涙があった。
夢香ちゃん(仮名)は6才からピアノのレッスンに通ってきた。今高校3年生。県外の大学への進学を志望している。法学部だ。
「先生…」
「でも音楽の旅に終わりはないのよ。」
先生は音楽の真髄が表現できるようにいろんなことを教えてくれた。早くから音大に進むわけではないと決めていたけれど、本当に人の心にしみるピアノとは何かを懸命に教えてくれた。夢香ちゃんのピアノはメカニック的には不十分だ。16分音符の動きはそんなに早くはないし、ホールで弾くと派手さに欠ける。でも、シューマンを弾けばシューマンの音になるし、バッハを弾けばバッハの音色が出せるようになった。得意な曲はシューマンの幻想曲op.17と、バッハのフランス組曲の1番だ。
「ピアノのレッスンを辞めても、あなたは音楽との人生を歩んでいくのよ。もう音楽は聴くだけでいいの…と思う時もあるかもしれないけど、やはり“表現したい”という欲求はピアノを辞めたあと、それから先の人生に起こってくるのよ。」
夢香ちゃんにはそれが何時なのかはまだわからない。でも人生楽しいことばかりではなく胸が張り裂けそうに辛いことも待ち受けているのは確かだ。彼女はその時こそ音楽の偉大さを再発見する。表現する手段を持っている夢香ちゃんは幸せだ。
暑い暑い夏のある日の白昼夢です。
*「白昼夢」はフィクションです
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