2026.08.15
アウグスト・ヨーゼフ・ノルベルト・ブルグミュラー(August Joseph Norbert Burgmüller)
●作曲家[ドイツ]
●1836年5月7日 死去(享年26歳)
●ショパンやシューマンと同じ1810年生まれ
●ピアノの『25の練習曲 Op.100』で有名なヨハン・フリードリヒ・フランツ・ブルグミュラーの弟
【アラベスク】【乗馬】で有名なブルグミュラーは兄。パリで華やかな成功を収めたその兄ブルグミュラーとは対照的に、弟のノルベルトは大変内向的で、お世辞や自己アピールが苦手な不器用な性格でした。
彼の作風はその性格の通り、当時の大衆が求めた奇抜な超絶技巧や、大げさな作曲の仕掛けとは無縁で、同時代のメンデルスゾーンの作風に少し似た、ロマンチックで素朴な美しさを持っています。
一歳違いのリストのような超絶技巧は一切なく、内省的でナチュラルな歌心が聴く人に染み入る曲想です。メンデルスゾーンは、この地元の若き天才を大変かわいがり、自身の演奏会でノルベルトの作品を取り上げるなど熱心にサポートしていました。
彼の音楽は、ちょうどその頃の絵画の潮流となっていた「バルビゾン派」の絵画に通じるものがあるかもしれません。
当時のヨーロッパは産業革命によって飛躍的な経済発展を遂げる一方、都市部では黒煙や汚水、過密化、そしてコレラの流行といった深刻な問題を生み出していました。その反動として、コローやミレーといったバルビゾン派の画家たちが描いたのは、木々や小川の流れの美しさ、そして鳥、牛などの動物が安心して暮らす、ゆったりとした優しい田園の風景でした。
ノルベルトの作品もまた、このバルビゾン派の絵のようにやさしさにあふれています。
例えば、彼の代表作である『クラリネットとピアノのためのデュオ 変ホ長調(Op.15)』は、まるで木漏れ日の森のようです。技巧を誇示しない素朴なメロディが、二つの楽器の間で対話のように優しく奏でられる様子は、バルビゾン派が描いた懐かしい自然のように安らぎます。
ピアノ曲『ポロネーズOp.16』は農村ののどかな風景や、素朴な村人の踊る足さばきまでも想像されます。本家のショパンよりも土着感があり、そのまま地元の食堂などで流れてきそうです。
彼は26歳という若さで旅先で急逝します。早すぎる彼の死に、当時の音楽界は深い悲しみに包まれました。
メンデルスゾーンが彼のために『葬送行進曲(Op.103)』を一気に書き上げたこと、親友の詩人イマーマンが棺に詩を捧げたこと、そして同い年のロベルト・シューマンも彼の死を激しく悲しみ、音楽雑誌で「フランツ・シューベルトの死以来、これほど痛ましい死はなかった」と最大級の賛辞を贈ったことを彼は知りません。
コローやミレーの絵を眺めていると、社交界や都会といったものに染まることを拒んだノルベルトの音楽がぴったりで、つい聴きたくなります。
© Heart Piano 2026 All rights reserved.
熊本市・東区健軍ハートピアノ教室
無断転載・転用はご遠慮ください