2022.08.15
M.ラヴェル作曲の歌曲集《博物誌》はジュール・ルナールの詩集《博物誌》より5編選んで作曲された。第1曲【孔雀】、第2曲【こおろぎ】、第3曲【白鳥】、第4曲【かわせみ】、第5曲【ホロホロ鳥】の全5曲からなる。
鳥たちの中で1曲だけ選ばれている昆虫のこおろぎは、ラヴェルの自画像だろうと言われている。神秘的な可愛さと無限の空間の広がりを持つ。
彼の音楽は『スイスの時計職人』と呼ばれるように緻密で繊細にできている。《博物誌》もそれぞれの音がかけがえのないきらめきと魔法を宿していて、自身「詩で言うことを音楽でいいたい。」と言ったように、絶妙なラヴェルマジックで言葉の世界と音楽の世界を共鳴させる。
ピアノパートはとても難しい。臨時記号盛りだくさんの音たちはもちろん、奥行き感とリズム感をうまく出さないとペタッと平面的になってしまう。全部の音符が宝石なのだから、指先の繊細で微妙な感覚がラヴェルの世界に近づけるかの試金石となる。
ところで、私もルナールの【孔雀】をパクって【烏】という題名の《博物誌》もどきの拙文を書いてみた。うちの周りには鳥が多い。神社近くのせいなのか、都会にありがちなだけなのか。勝手に《博物誌》風の音楽を想像しながら…。
【烏】
こいつは何で口が半開きなんだ。
羽を乾かしているぞ。通り雨に濡れたんだ。
ばかだなあ。街の中に雨宿りする場所はいくらでもあるものを。
しかしそれはしょうがない。長年連れ添った嫁に逃げられたのだから。雨に気が付かなかったのだろう。 人間の考えていることだって分かるのに。
遠くへ向かってアホー…アホー…と鳴く。やはり口を半開きにして、頭のてっぺんの毛はぼさぼさになったまま。
黒光りする立派な翼は本来ならカジノの支配人のように彼を引き立てるはずなのに、重たく濡れそぼった身体を引きずりながら、今は羽をゆっくりと広げたり閉じたりするだけ。
(ルナール《博物誌》【孔雀】よりニュアンスを参照)
オペラ《魔笛》を書きながらモーツァルトも窓の外に情けない鳥を見たかもしれない。
シューベルト作曲《冬の旅》の烏ならば全く違ってくるだろう。
熊本市東区健軍
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