2021.04.30
映画『ハリーポッター』の音楽で魔法学校の不思議な雰囲気を醸し出すのに一役買っているのが、チェレスタという楽器です。
チェレスタはアップライトピアノを小さくしたような形をしていて、ピアノのアクションと同じ仕組みでハンマーが鉄の棒を打ち音を出します。音質は柔らかく優美で、幻想的な演奏効果をもたらします。
その優しい美しさがそれ故になぜか怖い。現実離れしたぞっとした感じがそこにあります。“重力の支配を逃れ、自由にうごめく正体不明のもの” “目には見えないけれど確かにそこにいると感じてしまった怖さ”そんな感じを出したいときにピッタリの楽器です。
チャイコフスキーの《くるみ割り人形》『こんぺいとうの精の踊り』で使われます。かわいらしいけれど、妖精が人間ではないという現実離れした不思議な感じがこの楽器によって浮かび上がります。
ラヴェルの『ボレロ』にも登場します。いろいろな楽器が入れ替わり同じメロディーを執拗に繰り返しながら少しずつ少しずつ盛り上がっていくのがこの曲の醍醐味ですが、そこに登場するのがチェレスタとピッコロ、ホルンの組み合わせのターンです。チェレスタの不思議な音色にホルンが寄り添い、ピッコロが頭上で倍音上の違う音をかぶせるというラヴェル独特の職人技で、聴いている人の三半規管を麻痺させます。初演で「この曲は気が狂っているわ。」と叫んだ女性にラヴェルは「その通りだ!」と答えという逸話がありますが、チェレスタも他の楽器と共にしっかりその役目を担っています。
ホルスト作曲『惑星』の終曲《海王星》も聴き逃せません。“神秘主義者”との副題通り、目をつぶって聴くと宇宙の果ての神秘の世界まで飛んでいきそうです。チェレスタの美しくやわらかな響きが無重力の宇宙空間へ聴く人をいざない、女声合唱がそれに加わると「彼岸の先へ行くときはこんな音楽が聞こえるのかしら…。」と想像します。
”音がなくなるまで繰り返すこと”という指示があるエンディングは“永遠”を感じさせ、生命の神秘、果てしない宇宙、時空の流れの不思議さ…などイマジネーションの尽きるところがありません。
チェレスタは他にもストラヴィンスキー作曲『火の鳥』『ペトルーシュカ』R.シュトラウス作曲オペラ『サロメ』ドビュッシー作曲『海』などのぞくぞくする魅力満載の曲に登場していてあなどれません。
いつか《海王星》の中でチェレスタを演奏して神秘を体験してみたいな…と聴くたびに思います。
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室
090-5478-1106
P.S.チェレスタではないけれど、ラヴェルの『ボレロ』であのfffのエンディングを指揮してみたいかな。カッコイイ~!
(⋈◍>◡<◍)。✧♡