2020.12.27
世界には素晴らしいホールがいくつもあります。
ドイツのバイロイト辺境伯歌劇場、チャイコフスキーコンクールが行われるモスクワ音楽院ホール、ショパンコンクールのワルシャワ・フィルハーモニーホール、ニューイヤーコンサートのウィーン学友会ホール、プロムスの会場となる豪華ロイヤルアルバートホール(なんとキャパは9,000人)などなど素晴らしいホールは書ききれません。もちろん日本にもいいホールはいくつもあります。
しかし私が一番愛するのはやはり地元【熊本県立劇場】です。2016年4月の熊本地震では甚大な被害を受け休止を余儀なくされていましたが、見事復活しました。
道路から建物まではゆったりとしたプロムナードスペースがあり、大きな樹々が伸び伸びと枝を伸ばしています。夜の公演に出向くと、美しくライトアップされてまるで日々の喧騒とは別世界。そこをくぐりぬけて建物に入ると、開放感抜群の高い天井と温かい照明に彩られたホワイエ。壁面は矢羽根模様という手の込んだ模様の入ったコンクリートで覆われていて、飾られているオブジェや絵画がコンサートへの期待感を高め現実を忘れさせます。ふと食器の触れ合う音の方向に目をやると、併設のレストランでは演奏会の時間の来るのを優雅に待つ人たちの笑顔と、スタッフの洗練された身のこなしが見えます。
ここには音の響きにこだわってつくられたクラシック音楽の専用のコンサートホールと、舞台の奥行きと楽屋スペースをふんだんに確保した演劇ホールとがあります。コンサートホールは1,800席。音を最高の状態で聴衆に届けるために、雑音対策を徹底。残響時間も2秒という理想的な長さに計算されています。左右から張り出すウィング席は音が特に良く、サントリーホールでいうなら2階LB,RB席と同じあたりです。
メインの色調はグレーと落ち着いたブラウン。座り心地抜群、手触りの良い生地でできた座席につくと、開演を知らせるのは穏やかなチャイムのメロディー。地元の音楽家が作曲したフレーズで優しく演奏会の始まりを告げます。国内外のアーティストによる数々の素晴らしい演奏の記憶がこのホールのたたずまいと共に今も私の頭の中に鳴り響いています。
ここではプロの演奏家のコンサートのほかにも、学校の吹奏楽、合唱のコンクール、音楽会、定期演奏会などの会場として地元と密着した幅広い用途にも用いられています。【熊本県立劇場】の舞台で演奏することは県民にとっては特別な憧れであり、ここで引退コンサートを飾られた地元音楽家の先輩方もおられます。職員や舞台スタッフの方々の素晴らしさは言うまでもなく、陰で公演を支えるきびきびとしたお姿にいつも見とれてしまいます。
私にとってここは特別な場所。ここでリハーサルしたハードな日々の事やオペラの伴奏に毎日通った事、オーバーホールしたピアノの慣らし弾き、ソロを弾いたとき舞台があまりにも広く袖からピアノまでが遠くて緊張したこと、いろいろな方との出会い…など本当にたくさんの思い出が詰まっています。
ステージ裏にははるか階上へと通じる秘密の階段があり、そこを上ると舞台の最上段へ到着します。これはベートーヴェンの第九を歌うときなど大勢の合唱団が使う大事な通路です。今年2020年はベートーヴェン生誕250周年を第九で飾る予定でしたが、県民第九の会の演奏会は中止となってしまいました。来年は満席の【熊本県立劇場】でぎゅうぎゅうになりながら演奏会が聴けることを、そしてこのホールが何の規制もなく毎日生き生きと稼働していけること願っています。
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室