2019.01.27
CDを聴き終えると沈黙が訪れます。この静けさが好きです。
音がなくなった時に、今まで鳴っていた音楽が伝えてくれたものが自分の中にそっと居続ける感覚、消えてしまったものが心の中に生き続けている、そんな感覚が音楽が終わった後の静けさの中にはあります。聴いている間だけでなく、終わった後もその人の内面に作用し続ける効果、これが音楽の醍醐味のひとつだと思います。
しかし、自分のピアノ演奏ではついつい“弾けるようになること”優先になってしまい、指が反応しにくい難しい箇所を機械的にたくさん練習したり、今日のミスタッチは惜しくも5回、とかいうことに気持ちを奪われたりして、耳がおろそかになりがちです。音に集中するよう戒めないといけません。
ホールは静けさに敏感になれる場所です。少しの音もホールではピーンと響きます。聴衆がたくさん入っている時の静寂の威力は格別で、ホール全体が特殊な沈黙を充満させていて、天井いっぱいに広がる威厳に満ちた静寂が演奏者を圧倒します。それはなかなか体験できない貴重な体験で、ホール全体が静寂の意味をこちらに教えてくれているようです。その強い力をしっかり感じながら、聴き手に想いが届くように、そして演奏が終わった後も音楽がその人の心に残り生き続けるようにと念じながら演奏します。
弾き終えると、私の手が鍵盤から降りる最後の瞬間までも音楽の一部として真剣に耳をそばだててくださっている気配を客席から感じます。しばらくして拍手が起こりますが、もし私のピアノに満足された方がおられたら、さざ波のような拍手と共に音楽の後味がその方の心に流れ込んでいくといいな、と思って舞台袖へ下がります。
バレンボイムは「音は命と同じだ」と言います。「音は無から生まれ無へと帰っていく。」これは音を出す覚悟を教えてくれる言葉です。音を命のように敬い大事に扱う、音を聞き届ける、出す音に責任を持つ、これらは音符を追う指の動きだけに囚われているとなかなかできません。沈黙の中から音を紡ぎだすためには、よく聞いて音楽の中に深く分け入っていかなければなりません。
自分の感じている音や曲の持つ深いメッセージが、聴き終わった後もずっと聴衆の心に何かしらの作用を及ぼすことが出来たら素晴らしいことです。こう考えてくるともう、一音鳴らすだけでも一大事です。耳を澄まして今日もピアノに向かいます。
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