2018.08.11
みなみちゃんはThe four seasonsを夢中で練習しました。特に夏、に心を奪われました。
所々に庵 杜二夫先生の詩の書き込みがあります。
”太陽が焼け付くように照るこの厳しい季節に、人も家畜も元気を失い、松の木さえも暑がっている。
かっこうの鳴き声。北風が襲いかかる。
荒れ狂う嵐の恐怖。
稲妻、雷鳴、ひょうやあられまで降り、作物を叩き潰す。”
みなみちゃんは凄まじい勢いで弾きまくります。焼け付く夏の暑さ、容赦なく照りつける太陽、枯れていく草花、嵐がくれば荒れ狂う海、稲妻と雷鳴、カゲロウの中に見える幻覚…。抗えない自然への驚異を身体全体で放出させて表現するみなみちゃんは、曲と一体化し明らかに違う人格となっていました。しかも、
「ノン‼︎ノン‼︎モルト、モルトエスプレッシーボエアパッショナート‼︎」
庵 杜二夫先生の厳しく激しいレッスンは日本語ではないのに、なぜかみなみちゃんは理解することができました。
しばらくするとあんなにかわいかった小学二年生のみなみちゃんは、もう見る影もなく頰がこけ、目だけがギラギラしています。お母さんも心配してピアノの練習はほどほどにして、と言ってもみなみちゃんは聞きません。1日中練習して、残りの時間は死んだように眠りました。
みなみちゃんはその夏、熊本のコンクールの優勝を総なめにしました。東京大会の本選にももちろん進出し、前に習っていた先生と再会しました。先生はみなみちゃんの変貌ぶりに言葉もないようでした。東京本選でも優勝したみなみちゃんは、あやしい笑みを浮かべてトロフィーを握りしめました。そんなことが続いたある日とうとうみなみちゃんは倒れてしまいました。
気がつくと病院のベッドにいます。
「ロコモティブシンドロームですなぁ。しっかり身体動かして遊びよりますか?」
整形外科の先生が優しそうに笑います。
「子供のロコモですもんねー。もちいーーっと運動ばせなんですバイ。ロコモちゅう言葉もメタボみたいに一般的になるとよかバッテンなぁ。」
みなみちゃんのお父さんはしばらくしてまた転勤になりました。
「さよなら。」
みなみちゃんは庵 杜二夫先生と握手しました。今まで張り詰めていたものがスーっときえていきました。
「みなみちゃん、きいてるの⁈ここ、ミードッドよ!はい、もう一かい!」
みやざき市にひっこしたみなみちゃんです。こんどのせんせーはちょっときびしいけどふつうのせんせーです。
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盛夏のある日の白昼夢です。
※白昼夢はフィクションです