2017.10.14
バッハ、ベートーヴェン、ショパンをはじめとして同じ曲でもいろいろな出版社から楽譜が出版されています。どれも同じように見えますが、注意深く見比べると驚くほど違っているのが分かります。音、フレーズ、強弱やスタッカートのつけかたから、ついている場所、指使いまで違いはさまざまですので、その曲の本当の姿を知るにはなるべくたくさんの版を比較することが大切です。
版の違いが生じる理由としては
●研究用、教育用といった版の目的の違い(バッハの作品は指使いもアーティキュレーションもない真っ白な楽譜から、フーガのテーマの位置、カデンツの場所、他に考えられる音形などの情報を記載してある楽譜までさまざま)
●どんな資料(自筆譜、筆写譜、初版譜など)に基づいているか(バッハの場合弟子による筆写譜が複数種類ある)
●もともとの自筆譜の曖昧さから生じる誤解(筆跡が荒くて読みにくい、書き方に癖がある、経年で不明瞭)
などの理由が考えられます。
原典版といわれるものも2つ以上の出典から推理された楽譜なので、自筆譜と違う場合もあります。例えば♯などの臨時記号が明らかに書き忘れで欠落していると思われる箇所などは自筆譜に書かれていなくても出版では補われるわけです。
楽譜に書かれていることを音にしていく中で、複数の版を見比べることは作曲家の意志や想いを作品からくみ取るのに助けになります。もしレッスン中に不明な箇所が出できたら、私が持っている他の版と比較して最善の方法を模索します。音の違いはもちろん、スラーのかけ方ひとつで音楽の印象はがらっと変わります。いつも調べれば調べるほど分からなくなってしまいますが、疑問に思う箇所を比較検討し校訂報告を注意深く読み込んでいくうちに、作曲家の想いがだんだんと分かってきます。そしてその作業の過程で作品への理解度が進み、演奏に説得力を与えていきます。最終的な判断と責任は自分にあるという緊張感を常に持って取捨選択を繰り返していきながら、全体像を作り出していきます。
「ピアノの前じゃなくてもできることはいろいろあるのよ。」と、よく学生時代に言われたことを思い出します。
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