2016.10.01
2016年10月。秋雨のそぼ降る道路沿いに赤い彼岸花が咲いていて独特の雰囲気をかもし出しています。
思わず立ち止まって目をつぶる私を、通行人が不思議そうに見ていきます。
ふと、どこからかピアノの音がしてきます。そして歌声…?!
「マンジュウシャカ~恋する・・・・・・曼珠沙華~・・・。」
「美樹(仮名)ったらまたその曲歌ってるの?弾き語りといえばそればかりだね。山口百恵だったっけ。」
「もう煮詰まっちゃったのよ、クラシックばっかりじゃ。コンチェルトの本番がもう来週に迫ってて。こないだ道ばたに彼岸花(曼珠沙華)が突然真っ赤に咲いていてどきっとしちゃった。あの花って毎年突然咲いててどきっとするのよね。」
美樹はドイツ留学経験があるピアノ講師。シューマン研究会の会長も務めている。
「私、彼岸花を見ると死んだおばあちゃんを思い出すの。小さい頃近くの神社で暗くなるまで遊んで、おばあちゃんが喜ぶかと思って彼岸花や赤くなったハゼの葉っぱやらをたくさん摘んで帰ったのよ。そしたらいつも物静かで優しいおばあちゃんにものすごくしかられて、せっけんでごしごし手を洗わされたの。今思えばおばあちゃんの顔、すごくおびえてた。」
その季節にしか咲かない花は何年も前の同じ季節の出来事を呼び覚ますものだが、美樹にとってこの花は特に昔の記憶を強く思い出させると同時に何か深いところからわき上がってくる得体の知れない原始の記憶も呼び起こすような気分になる花だ。
「マンジュウシャカ~燃やし尽くすの・・・・・・曼珠沙華~・・・。」
秋、地面に近い場所にひっそりと咲いている彼岸花。草丈はそうないはずなのに目について美樹の原風景を強く刺激する。
秋雨の降るある日の白昼夢です。
*「白昼夢」はフィクションです
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