2021.05.11
《カツラをかぶらなかった》音楽家の肖像画を時代順に見ていくと、ベートーヴェンあたりから地毛になった。フランス革命の影響で社会の秩序が変わり、それまで、宮廷か教会に仕える事が、(分かりやすく言えば公務員みたいに)生活保証されていたが、貴族社会のルールやマナーを守らなければならない。人前に出る時は礼儀として、宮廷風衣装でカツラを装着した。とはいえ、貴族の仲間入りした訳でなく身分は従僕である。その屈辱に耐えきれずモーツァルトは、ザルツブルクの宮廷音楽家の地位を蹴り、ウィーンでフリーの音楽家になった。15歳程若いベートーヴェンは、ウィーンでは貴族達と対等に交際し誰に仕える事もない独立独歩の人生を歩んだ。貴族をパトロンとしても、彼らからの報酬は自分の芸術の正当な対価と信じ、カツラをかぶる必要もなかった。書く音楽も、王公貴族の趣味に合わせなくてもいいし、教会の布教活動に貢献するものでなくても構わない。ベートーヴェンは、市民や大衆のため、彼らと共感出来る音楽を書いた。演奏会場の拡大つまり、ピアノの性能の向上は、(産業革命で鉄を加工する工場が出来)、ピアノという楽器の音を大きくする事が出来て、広い会場での演奏が可能になったのである。又、出版、写譜、興行師など、音楽関連業者の台頭も後押しした。この姿勢がその後の音楽家に受け継がれていった。革命とナポレオン戦争により、ヨーロッパ各国の旧体制が崩れた激動の時代にベートーヴェンは生きた。