2025.10.07
ピアニスト大嶺未来さんの果てなき挑戦
――ラフマニノフからスクリャービンへ、そしてその先へ――
静かに始まり、やがて魂が燃え上がる――。
10月3日、ヤマハ銀座コンサートサロンで開かれた大嶺未来さんのコンサートは、まさにそんな夜でした。
沖縄出身のピアニスト・大嶺未来さんは、ラフマニノフのピアノ曲全曲(ソロ曲はもちろん、連弾、2台ピアノ曲までも!)を演奏しきった稀有な存在です。
私はこれまでに、大嶺さんをピティナ武蔵小山ステップのアドバイザーとしてお招きし、トークコンサートを開いていただいたり、自宅での「コンサート&ワイン」で演奏していただいたりしました。
卓越した演奏技術に加え、常に穏やかで謙虚なお人柄――その姿勢に、心から尊敬の念を抱いています。
ラフマニノフ全曲演奏という偉業のあとも、大嶺さんの挑戦は続きます。
次なるステージは、「ラフマニノフのピアノリサイタルを再現するシリーズ」。
作曲家であり名ピアニストでもあったラフマニノフが、実際に演奏したプログラムを現代に甦らせるという、音楽史への深い探究心に満ちたプロジェクトです。
その第3回公演が今回のコンサートでした。
テーマは――1915年秋、ラフマニノフが行った「スクリャービン追悼コンサート」。すべてスクリャービンの作品だけで構成された、特別なプログラムです。
ラフマニノフ(1873–1943)とスクリャービン(1872–1915)は1歳違い。
モスクワ音楽院で同じ師のもとに学び、ピアノ科ではラフマニノフが1位、スクリャービンが2位という、互いを高め合う関係でした。
スクリャービンが43歳でこの世を去ったその年、ラフマニノフは彼を偲び、オール・スクリャービン・プログラムの追悼演奏会を行いました。
今回、大嶺さんにとってもスクリャービン作品だけのコンサートは初挑戦だったそうです。
ラフマニノフとはまったく異なる、神秘的で霊感に満ちた音の世界――。
その幻想的な響きと情熱のうねりが見事に融合し、会場は息をのむような緊張感と美しさに包まれました。
私も、どっぷりとスクリャービンの世界に浸り、時を忘れるほどでした。
そして次なる挑戦は、「ラフマニノフ最後のリサイタルの再現」。
彼女が次に紡ぐ音の物語は、どんな世界へ私たちを連れて行ってくれるのでしょう。
次回のステージを心待ちにしています。