2015.10.06
もう一月前の話になります。
9月の初め頃、わたしはフランス・オーベルニュ地方の街、ル・ピュイを旅していました。
火山の作り出した円錐状の奇岩のならぶ、不思議な街です。
日本を発った時は、まだ夏の名残の暑さだったのが
フランス中央山塊の東に位置するここはもう晩秋の寒さ。
夕暮れどきには、コートを羽織った人々が寒そうに首をすくめています。
ここに来る前は、コンクという山あいの小村に滞在していました。
人口300人ほど、素晴らしい中世の修道院のある美しい村です。
そんな場所から来たものですから、田舎街のル・ピュイですら行き交う車と人々に落ち着かない心持ちになりました。
ひとまず宿に落ち着き、しばし休憩。
もう夕暮れどきでしたが、少し街歩きをすることに。
新しい街についたらまずは街一番のモニュメント、ヨーロッパではたいてい教会のある広場になりますが、まで歩いてみるというのが私のやり方。街の
雰囲気と地理感がつかめると、その街がぐっと身近になりますからね。
ル・ピュイの街は、丘の上のカテドラルに見守られるように広がっています。
まずはこのカテドラルを目指すことに。といっても丘の上の教会ですから、地図などうっちゃって、とりあえず坂を登って行きます。
坂道をだらだらと、寄り道、休憩、当てずっぽう、細い路地をくぐり巡礼の一行とすれ違い、ようやく教会の裏手へ到着。
そっと教会の扉を押し開けると、堂内に降り積もった祈りの空気が私を取り囲みました。
夕暮れのカテドラル、静謐な空間、蝋燭に照らされる小さな聖母像。
なんども写真で見てきたのに、実際に見るそれはもっと小さく、輝かしく、全てを受け入れているように見えました。
一人の老人が一心に祈りを捧げています。
彼の邪魔をしないように、息を殺して傍に腰掛け聖母と対面すると
ここ数ヶ月、いえ数年だったかもしれない、心の奥深く固く結ばれていたものが
解けて、ただ涙が溢れました。
さあ、いったいどれ位そこに居たのか、
ようやく正面玄関から外にでると、眼下にル・ピュイの街が見渡せ
感動で心が満たされていました。
不思議なものです。
言葉も通じぬ異国の地、異教の神に受け入れられるとは思いもしませんでした。
しかし、ここル・ピュイはキリスト教の入るずっと以前から信仰の場であったとか。
おそらく、この地には何百年、何千年と折り重なった人々の祈りが染み込み
聖母は人々の祈りを、、、宗教宗派人種を超えて受け入れてきたのでしょう。