2024.05.13
若い時から「良いタッチ」について試行錯誤してきました。
自分自身の演奏についてはもちろん、その指導法についても。
そして昨今、気になったのがフワフワとした鳴りきらないタッチでした。
それは、パソコンのキーボードの表面を撫でるようなタッチとでも言いましょうか。(もちろん、力で押し込むような、叩きつけるようなタッチも推奨しません。)これは現代ならではの練習環境、自宅では十分に音を出せない、といった事情も関係しているのかもしれませんね。
はて、これはどうしたものか?
この小さな、柔らかい手の良さは生かしつつ、十分に楽器を響かせる感覚をどうやったら掴んでもらえるのか。
ヒントはチェンバロのレッスンからやってきました。
チェンバロは時に「ピアノの先祖」と紹介されるように鍵盤楽器の一種です。が、その発音の仕組みは全く違っています。ピアノがハンマーで弦を「叩く」のに対してチェンバロは弦を「爪弾く」。つまり構造的には前者を打楽器、後者を撥弦楽器と分類することもできるでしょう。
そして、私は悩んでいたのです、チェンバロのタッチについて。
どうやったらパリッとした溌剌たる音色を作れるのか。
「爪弾く」感覚を、あるいは音を切る感覚を、目と耳と指先で捉え直す日々がありました。
そして、思ったのです。
この鋭敏な指先の感覚をピアノで応用したらばどうだろう、と。
つまり「ハンマーが弦を叩く感覚」をもっとダイレクトに指先でイメージしてみては、と。
イメージするためには、ピアノの音が鳴る仕組みを理解している必要があります。生徒さんたちと、もう一度ピアノの中を探検してみました。指先の乗る鍵盤の(見えない)先にハンマーが載っていて、打鍵と共にハンマーが上がって弦を叩く。
ぽん!ほらハンマーが上がった!弦を叩いた!
その音色の変化には、私も生徒さんたちもびっくりでした。
一本一本の指が一音一音を語っている実感。
楽器を鳴らす快感。
その響きに包まれる喜び。
ピアノは複雑な構造を持った楽器です。にも関わらず、キーを押しさえすれば誰でも音を出せる安易な楽器です。見えている鍵盤上の難しいテクニックに目を奪われそうになることもあるでしょう。
でもまずは、しっかりと楽器を鳴らす。
その響きを身体が喜ぶ。
ここを忘れちゃいけないな、と改めて思いました。