2024.02.19
ブラームスの子守歌を伴奏する機会を頂きました。
柔らかいメロディと簡易な伴奏、初心者でも親しみやすく、ドイツリートの入門としてよく取り上げられる曲の一つかと思います。私もこれまで何回となく伴奏してきた曲でしたが、新たにたくさんの発見と、それに伴う大きな喜びがありました。
今日はそんなお話を少し。
伴奏者のお仕事の第一歩は良きテンポの設定となるでしょうか。
もちろん事前に歌い手と調整するのですが、本番のテンポはその日その時の条件にも影響されます。またテンポは拍感とも強く結びついているので、最良のノリで音楽を始められるかは当日最も緊張するところです。
さてブラームスの子守歌。
この曲は子守歌としては珍しく3拍子、しかもアウフタクトの始まり。
これには苦労しました。しっかりと一拍目を示せないと、歌が入ってこれない。でも曲調を壊さない重く、柔らかな一拍目をどう作るのか。また前奏で揺籠の揺れも表現したい。結局私は二小節をまとめて6/8拍子とすることにしました。
右手のハーモニーが実に緻密に書かれているのも驚きでした。
歌の旋律線を取り囲んで、歌より下部音域に潜ったり、あるいは歌の上に浮き出たり。それは揺籠の上、優しい微風にそよぐカーテンのようでもありました。
時に一瞬、右手が歌と2度でぶつかると、そこにクリスタルな色の煌めきが加わります。クリスマスツリーの点滅のように(2番の歌詞にクリスマス・ツリーが出てくるんですよ)。
歌とのバランスに神経を遣いながらも、この揺れや煌めきをどう表現するか、演奏中も気が抜けませんでした。
そして、左手。何というシンプルな左手。
36小節あるこの子守歌の一拍目は最初から最後まで同音なんですね。
それは36回繰り返される鐘の音、永遠の鼓動、静かな寝息、、、と解釈は色々とありましょう。それでも、聴き手に、それと気付かぬままに、穏やかで満ち足りた感情を呼び起こすことは間違いなでしょう。それが36回の主音。
これを発見した時は心底感動しました。
小品の中に詰め込まれたたくさんの宝もの。
さて、少し伴奏者の仕事場を知っていただけたでしょうか。
伴奏って素敵な仕事です!