2022.11.17
なんとも考えさせられる本でした。
「凛として灯る」(著:荒井裕樹)
書を開くと、まず次の言葉に目が留まります。
「その人は『モナ・リザ』にスプレーを噴射した。
理由を知るには人生を語る覚悟がいる。』
その人とは米津知子氏。1974年、東京で開催された「モナ•リザ展」において車椅子利用者の入場が制限されたことに対する抗議として、この世界的名画にスプレーペンキを吹きかけようとした、ウーマンリブの活動家です。
実は今年に入ってからも同じような事件が欧州各国の美術館でありました。
美術館に行くことが大好きな私です。眉を顰めました。なんという馬鹿げたことを。貴重な絵画を毀損するに足るどんな理由があるというのでしょうか?と同時に、いえ、衝撃的な事件だからこそその背景を知りたいと思いました。
読み始めてすぐ、著者荒井氏の柔らかな筆致に惹き込まれていく自分がいました。モナリザにスプレーを吹きかけると言う行為、その過激さとは結びつかないような抑えた口調。慎重に言葉を選びながら、真実を書き起こそうとする温かみのある文章。この筆致に至った理由は後書きにありました。
米津氏ら「ウーマンリブに関わった女性たちの使う「女」と言う言葉の語感を再現したかった」こと。そして、物事の因果関係や理由についてあえて「簡潔に語らない」と言う選択をしたこと。
正解か不正解か。善か悪か。敵か味方か。二分法で語られることの多い社会です。その中で、あえて葛藤を葛藤のままに語る。そのためには人生を語る勇気が必要だと。
読みながら唸りました。
ウーマンリブ、フェミニスト、Mee too運動。活動の呼び名は変わり、抗議のスタイルも変わりました。とはいえ、その求めてきたもののなんと変わっていないことか。いえ、なんと社会が変われていないことか。米津氏の闘いは、今まさに私たちが直面している問題でもあったんですね。
「凛として灯る」
このタイトルは荒井氏が米津さんと対話する中で自然と浮き上がってきたフレーズだったそうです。ときに過激な波にのまれ、挫け、世間から忘れられ、それでも揺るぎない信念を持って灯り続ける。
一刀両断に「馬鹿げた行為」で押しやれないものがここにはありました。