2021.01.09
年明けに素敵なニュースを見ました。
それはフランスのチェロ奏者Claire Oppert氏の記事。パリ生まれ、モスクワのチャイコスキー音楽院出の彼女は、世界的なソリストとして世界を回りますが、近年は病院での音楽セラピストの活動に力を入れているとか。
痛みや呼吸困難を抱える患者さん、認知症や自閉症を抱える方々、そんな人々の病室にチェロを抱えていき、一人一人に音楽を届ける。ベッドに横たわっているムッシューの足先が拍子を取り、酸素吸入器をつけたマダムが笑顔で息をつく。
人間の声に近いと言われるチェロ。その音楽の力にOppert氏自身が驚かされているようでした。
話は逸れますが、一年前から始まったパンデミック。
当初わたくしが最も受け入れがたく思ったのは、罹患の恐怖でも経済の下振れへの不安でもなく、人との社会的距離でした。どちらかと言えば一人行動の好きな私ですが、その私でさえオープンに人と繋がっていきたいと願い、それを愉しみとしてきました。感染対策によってその土台が否定されていると感じました。そしてコミュニュケーションをベースとして発展してきた文化が毀損されてしまうのではないかと苛立ったのです。
しかしながら一年経って、それは杞憂だったようです。人々はあい変わらずレストランには行きたいし、旅行もしたいし、、いや皮肉じゃないんです。各人知恵を絞って何とか繋がろう、隙あらばより集まろうとしているのを見ると、人間そう簡単に変わりゃせんのだな、と安心しました。2、3年の行動制約で壊れるようなヤワな文化ではなかったと。
劇場は不要不急かという問いがあります。
ある日ある時ある場所へ、見知らぬ人々が三々五々やってきて、並んで座り、拍手をし、また散り散りに帰っていく。ただそれだけの時間。でもある瞬間には見知らぬ人と一緒に笑っているかもしれない。見知らぬ人と一緒に息をのんでいるかもしれない。見知らぬ人と一緒にため息を漏らし、ともに熱い涙を流しているかもしれない。まあ時々は、何だか今日はつまんなかったわね、といつもよりちょっと少ない目の拍手をしている日もあるけどね。でもそれもまた隣の人と共有していたり。(笑)
劇場では互いに言葉を発さなくとも、実はたくさんの人々が互いにコミュニュケーションをしているではないかしら。そして人々が繋がりを求めている今だからこそ、それを呼び起こせるような劇場文化は必要不可欠なんじゃないかしら。
音楽家、演劇人、ダンサー、シネマ、美術館、、
いま感染対策に注意しながら、細くしぶとく、文化の息をつないでいる方々がいます。この冬を乗り切ったら、私も少しづつ演奏を再開していく予定です。
応援していただければ幸いです。