2026.02.28
“彼女は純粋無垢な小鹿みたいなつぶらな茶色い瞳をしていて
その瞳はいつも涙でウルウルしていて”
“それはわがままでも悲しみを訴えているわけでもなくて意味はなくて
愛の泉から自然に涙が出てきちゃってて”
“ひっそりと真剣に愛することしかできなくて
最初に出会った人にしっかりしがみついて運命を共にしちゃう性を背負ってて”
こんな女性…。一途でいいなぁ。それとも身構えちゃいますか?
実はこれは、いろいろな花を女性に例えて書かれた詩に美しい音楽が付けられた、リヒャルト・シュトラウス作曲の『乙女の花』という歌曲集の第3曲“木づた” の花の様子。原語のドイツ語を私が意訳して引用したものです。
詩を書いたのは フェリックス・ダーン (Felix Ludwig Julius Dahn,1834-1912) 。ドイツの法学者、歴史学者、そして詩人です。花を女性に見立ててうっとりするような詩を書いています。
木づたの花は、地味でひっそりと隠れて咲きます。その控えめな姿は、この詩にあるようにいかにも内気な女性を連想させます。
曲の冒頭は、ピアノの三連符の分散和音が空間に静かに漂い、歌は三連符ではなく八分音符で寄り添います。すなわち、ピアノの音符3つに歌が2つの音を合わせるという、割り切れないリズム運びをすることで、メロディーと伴奏のからみあいが曖昧で浮遊する雰囲気を醸し出し、つたがからみついていく様子をほうふつとさせています。
そしてメロディーは
unwiderstehlichとunerschöpflichという単語を強調します。どちらも木づたの性を表す言葉。つまり
unwiderstehlich 「抵抗できない」「あらがいようのない」
誰かにからみつくことでしか生きられないというあらがえない運命
unerschöpflich 「くみ尽くせない」「無尽蔵の」「無限の」
尽きることを知らない愛
という意味です。否定形のunが付いた言葉によって詩は更に説得力を増し、木づたの宿命を印象付けます。歌い手もこの単語の表す強い思いを身体中に感じながら音に命を込めるのです。
そして、ピアノは常に下から上へ(低音から高音へ)という、まるでツタが這い上がっていくような動きを繰り返すのですが、 liebend(愛しながら)の歌詞の所だけ下降形ではらはらと降りていきます。それはまるで木づたの愛の切なさを象徴するようです。
さて
「最初の愛の絡みつき(抱擁)に、彼女たちの全生涯の運命が懸かっている」という歌詞のところ。
ここで使われるhangenという単語は、「しがみつく」「思いを寄せる」のほかにも「すがりつく」「執着する」という意味もある二面性のある言葉。木づたの愛の深さゆえの恐ろしさも感じられます。
そう、この一途な愛の持ち主 “木づた” さんですが、外壁なんかに張り付いちゃったら、べりべりとはがすのはけっこうな大仕事なのです。それに彼女は意外と暑さ寒さ、乾燥にもびくともしない体力の持ち主…。
まさか…。
そうです。実は彼女の別名は“アイビー”。
よく見かけますね。
どんどん伸びますね。
ほっといても枯れませんね。
はがすの大変ですね。
放置すると庭中に広がってしまう剛健な “アイビー”に究極の愛を見たダーンさん。
天才ロマンティスト賞です。
© Heart Piano 2026 All rights reserved.
熊本市・東区健軍ハートピアノ教室
無断転載・転用はご遠慮ください