2026.01.15
《ヴィオラ・ダ・ガンバ》とは現代のチェロの原型となる古楽器で、その魅力は何といっても深い陰影を持つ音色です。
チェロより地味で柔らかい音色を持ち、優雅さと共にため息のような哀愁をまとい、その豊かな響きは聴き手を優しく包みます。
『夢見る人』はそんなヴィオラ・ダ・ガンバのための作品です。
マラン・マレ(Marin Marais, 1656-1728)は、貴族文化が栄華を極めたルイ14世時代のフランス宮廷音楽家です。彼はヴィオラ・ダ・ガンバの奏者であり、作曲家、指揮者でした。
当時マレが仕えたルイ14世は、まさに絶頂期まっただなか。多額の費用がつぎ込まれ、ベルサイユ宮殿は大幅に増築されます。一流の建築家、造園家、画家、室内装飾家の手を駆使して最高の技術と豪華絢爛な趣向が凝らされました。
やがて王の威光としての文化や芸術はいっせいに開花し、フランスはヨーロッパの頂点に君臨することになります。
しかしそんな輝かしい時代の中にあって『夢見る人』にはなぜか哀しみが深く影を落とします。
ロマンティックな題名とは裏腹に、“夢見る”というよりは“懐古している”ようです。
専制君主の独裁。
命が美しいがゆえの儚さ。
美しいものに付きまとうあの影を恐れる人間の嵯峨。
不安。孤独。永遠の別れ。
当時のフランスに実際にあったのは戦争・疫病・飢饉・重税。ヴェルサイユ宮殿の建設にも、多くの人夫が死亡したといいます。
宮廷の豪華さは国民の犠牲の上にあった…。これがゆくゆくはフランス革命につながっていくわけですが、ヴィオラ・ダ・ガンバの音には、もう滅びの気配が忍び寄っているようです。
時代の影や哀しみはいつも似ています。
そしてマレの時代にヴィオラ・ダ・ガンバは衰退し、姿を消します。
しかし今もその音色は薄明りの中にほのかな輪郭を描いています。
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