2025.07.31
「今日の○○君、めっちゃビジュがいい!」
仲良しの若いBちゃんがうっとり携帯の中のオシを見つめながら言います。
若い世代が使う“ビジュ”という言葉は、もともと“ビジュアル(visual)”の略で、主に顔や見た目の良さを指す言葉です。つまり“ビジュがいい”という言葉は顔がかっこいい、かわいい、美しいという誉め言葉、“ビジュが悪い”とくれば、見た目がイマイチという意味です。
クラシックの音楽家たちも当然、見目麗しい若い時代がありますが、時間の経過とともに徐々に心も身体も演奏も変化していきます。ただその変化には、歳月を重ねて獲得するものも見えてくるのです。
♬イーヴォ・ポゴレリッチ
20代のころのふさふさの長髪がまさかの坊主ヘアにチェンジ。体格もふっくらして若い頃のスレンダーな彼とはずいぶん違う印象。しかし簡素なソナチネの第2楽章がこんなに美しい曲だったなんて。音楽の内面を丁寧に紡いでいく、悟りの境地。
♬ダニエル・バレンボイム
CDジャケットで見慣れていたバイク野郎のようなふさふさ黒髪のワイルドな彼はどこかへ…。挑戦的だった瞳もすっかり穏やかな優しいまなざしに…。たっぷりとした体形になった彼の音楽は温かい深みを増し、モーツァルトの小品から、無垢な美しさと信じられないほどの美しい弱音を引き出す。人間的にも成長した彼は更に指揮者としても厚い信頼を得、ますます円熟の境地へ。
♬クラウディオ・アバド
若い頃はまさにビジュがいいイタリア人貴公子。しかし晩年は闘病しながらの音楽活動。背中は丸くなり指揮をする仙人のようにやせ細っている。しかしその神がかった弱々しいタクトから紡ぎだされるのは、信じられないほどの大いなる音楽の世界。彼との時間を一秒一秒かみしめるオーケストラ。彼の指揮を信頼しきった団員のまっすぐな眼差し。拍手をすることすらためらうほど、最後の音が消えた後の余韻までもが心打たれ、誰もがその音楽の行方を永遠に追い続けるような音楽だった。亡くなってもずっとアバドの音楽は響き続ける。
一生を音楽に捧げた巨匠たちの偉業は世界中の人たちの心をとらえて離しません。彼らが身を削って音楽と生きた時間は音に込められて、聴き手の心の中に深く響きます。
そう。“ビジュ時代”が終わってもクラシックの音楽家たちは生涯音楽の神髄を求めて演奏を続けていきます。そう。いつまでもほんと、カッコイイ!のです。
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熊本市・東区健軍ハートピアノ教室
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