2025.05.15
ヨーロッパの五月はバラが咲きほこり美しい季節です。熊本の五月は毎年すぐに暑くなってしまうのですが、今年は朝晩が涼しいせいか、ご近所のお庭でも満開です。
そんな今年のさわやかな五月には、チャイコフスキーの《四季》より“五月の夜”のような涼しい曲の良さがすーっと身体に入ってきます。
何という夜! 何という恍惚!
私の真夜中の国 お前に感謝する
何と新鮮で澄んでいることだろう
この五月の爽やかさは!
アタナシイ・フェート(1820—1892)によるこの詩にインスパイアされて作曲された“五月の夜”は、素敵なアルペジオに彩られた和音で始まります。(アルペジオ:和音の左側にあるくねくねの線のマーク。和音の下の音から順番に上の音へ向かって弾く。子供の生徒さんはよくワカメと呼ぶ。)アルペジオで弾くと和音が豪華になり、ロマンティックに響きます。
緯度が高い国では、冬の夜がひたすら長く厳しいのですが、春から夏は反対に昼間が長くなり陽の光のありがたさを実感するそうです。なかなか暗くならない夜には、お酒を飲んだりピアノを弾いたりしたくなるかもしれません。アルペジオがリラックスして五月の空気を楽しんでいる様子を醸し出します。
何か花の香りも漂っているのでしょうか。夜になるとぐんと強くなる花の香りが開け放った窓から入って来るようです。
そして中間部は急に心がざわざわする不安な雰囲気。さっきまでのうっとりした中に、急に冷たい風が吹き込んできます。呼び覚まされるのは厳しかった冬の出来事?それとも遠い過去の記憶?それとも魔女が駆け抜けた風?弾く人によって思い浮かぶ情景は様々です。
不気味な中間部の後、曲はまた落ち着きを取り戻し、優雅なアルペジオが響き静かに曲を閉じます。
チャイコフスキーの《四季》は一月の“炉端にて”から始まって十二月の“クリスマス”までの12曲からなっており、譜面的には中級程度です。しかし、本当に美しく仕上げようとするととても難しく、ごまかしがききません。
こんな小さな宝石のような曲を大事に弾くのも楽しいですね。
熊本市
東区健軍ハートピアノ教室
©️Seiko Kai 2025