グリーグ作曲 抒情小品集 第3集より 春に寄す Op.43-6
2025.02.28
春になると必ず弾きたくなる美しい小品です。北欧ノルウェーの作曲家グリーグが旅行中ホームシックになった時に作られました。
「どこにでもある春の風景ではなく、ノルウェー独特の自然の有り様を懐かしんで作った。」と彼が手紙に書いているように、その壮大で厳しい冬から春への劇的な季節の移り変わりと、その中で心を躍らせるノルウェーの人々の息づかいが聞こえてきます。
冒頭。三和音の連打が遠くから聞こえます。pp(とても弱く)の指示があるので弱音なのですが同時にAllegro appassionato (明るく快活な、情熱的に)という表記もあります。
相反するようなこの表記が、待ちに待った春の訪れに興奮する息づかいの荒さが、優しくまだ小さな生まれたばかりの春を前にしてためらっているようです。
4分の6拍子なのでメロディーはンタタンタタと三拍子で進んでいくのですが、時々高まる気持ちをためらうように二連符が挟まっているのが絶妙です。リズムも均等に打つよりもルバート(速くしたり遅くしたり)を上手く使いながら音楽の推進力を高めていきます。
春への喜びの部分が落ち着くと、急に暗い響きになり曲は次第に盛り上がっていきます。ノルウェーの壮大な自然その厳しさ美しさを高らかに歌い上げる和音が連打されてクライマックスでは、音の大パノラマ絶景が広がるのです。
北欧の冬は夜が長いので、春になって昼間の時間が少しずつ長くなっていき、辺りが輝きに包まれる喜びは格別なのでしょう。そしてグリーグにとって、自分の愛するふるさとの春の景色というのは特別なものでした。
もし私も外国でホームシックになったらその国の春の花ではなく、桜にこそ春を想うでしょう。静かに佇む桜の木と淡い花の色、散る時もはらはらと儚い桜を想いながらピアノを弾くかもしれません。
熊本市
東区健軍ハートピアノ教室