2025.01.31
今回は読むのが苦痛になるぐらい長ーいおはなし。
「モーツァルトのトルコ行進曲は何時間練習すれば弾けるようになりますか?」
生徒さんからのこの質問に、ピアノ仲間のYちゃんが悩んでいます。素朴な質問ですが、ピアノ講師の頭は様々な???が飛び交います。
物理学では全ての現象を美しく数式で表せるとか。もしかして計算できるかもしれません。
まずざっくり1日30分で一段を練習できると仮定。トルコ行進曲の譜面割りはだいたい26段で印刷されていますので、30分×26で13時間です。
それから、一番難しい嬰へ短調のところ(2ページ目あたり)から練習してみて一段を30分で弾けるように頑張ってみます。30分ではムリ、となると区分量を減らすか、同じ一段で練習時間を増やします。計算は変わってまいります。
さて次の練習日。
人の脳は忘れるようにできています。前回練習した箇所は少なからず弾けなくなっています。定着させるには反復練習が必要です。もちろん個人差がとてもあります。
一晩経つと忘れてしまう割合は人にもよりますが、それをご自分の経験値とピアノ歴から割り出しましょう。また、一晩経過して忘れる割合と、二晩の経過で忘れる割合はまた違うはずなのでそれも考慮しましょう。毎日練習できる環境ではない方がほとんどですので、一晩経って復習したけれどその次の日は練習できなかった、といったように練習日がとびとびになると、細かな計算の修正が必要です。
ところが!脳は経験を熟成させるので、毎日の試行錯誤の結果、突然飛躍的に上手くなることもございます。意外と覚えちゃってる、という身体や脳の不思議も確率として加味します。
しかも、2日目からは初日のように新たな一段に丸々30分をかけるわけにはいかず、何%かは復習に回さなければなりません。練習が長くなり譜読みが進むにつれ、その割合は厳しくなっていきます。
また、分割して日々練習していくと、部分部分の連結がおろそかになり止まってしまいます。音楽は常に書かれている通り流れていくもので、音符の流れに反して止まることは許されません。なぜかと言うと無音も音楽表現のひとつだからです。連立方程式を解く鉛筆の動きは自由な場所で止められます。出来上がった紙面に正解が途切れなく書いてあれば、鉛筆の動きの停止は連立方程式に何の問題ももたらさないからです。しかし音楽では、音が止まる、音を伸ばす、無音、は全て音楽的な表現に含まれていて意味を持ってくるので、楽譜にないものを自分の都合で混入させて(止まって)はいけないのです。と思っていると、あ「あれ、ここはじめのフレーズと一緒じゃん。」というところが出てまいります。音楽には構成というものがあり、前と同じメロディーが出てくることがよくあります。「やったーここは弾けるぅ〜♬」と調子に乗って何度もそこばかり弾いていると、上手い部分とたどたどしい部分の差が出てまいります。これは演奏としては最も避けたいことです。(難しい箇所で突然ガクッと遅くなるとカッコ悪い)それで、曲中1回しか出てこないようなところを、繰り返し出てくるところと同じ回数に合わせて弾く必要が出てきます。しかし回数をただ合わせても、1回しか出てこない箇所はだいたいその曲の盛り上がり、素敵な箇所なので、一筋縄ではいかない難しさになっていることも往々にあります。その際は難しさの比較も加味して練習回数を増やしていかなければなりません。
そうして全体が弾けるようになり、ゴール。
と、思いきや間違いの音発見、指使いを間違えていてこれではヒキニクイッ、等々。しかし人は一度覚えてしまった身体を矯正するのには、多くの時間と労力が必要です。
どこまでを“弾けた”とする価値観も人により様々です。
このような思考はピアノの練習をどんどん過酷なものなのに変えていきます。
たどたどしくても音を紡いでいく時間こそが音楽の幸せであり、少しづつ練習を重ねてモーツァルトの世界に近づいていく過程こそが楽しいものです。私が子供の頃、大曲の中のたったひとつの和音を鳴らすだけで感動が身体中をかけめぐったことは忘れません。
ピアノ講師に
「モーツァルトのトルコ行進曲は何時間練習すれば弾けるようになりますか?」
と尋ねて先生が言葉に詰まったら、長たらしく書いてまいりました以上のたくさんのことが先生の頭を駆けめぐるからです。
ピアノ講師では弾けるようになる時間を計算できないのです。
もしわたくしが音楽家として述べましたこの上記の文章を物理学者や数学者の頭脳を持つ方が数式で表せば、問いは解決されるのですが…。