2024.12.30
あなたが歌う理由は?あなたがピアノを弾く理由は?と、聞かれたらどう答えるだろう。
「音楽が好きだから。」
「上手くなりたいから。」
しかしこの答えには
「では音楽の何が好きなの?」
「ではなぜ上手くなりたいの?」
という問いが更に続く。
「感動を伝えたいから。」
では何となく偽善的に聞こえる。
そしてひょっとして他にも理由が?
谷川俊太郎の詩《私が歌う理由》に、人はそれ以上何も問うことはできない。
この詩が驚異的なのは、歌詞という“言葉で”人が歌うのはもちろん、歌詞のない“音楽で”しか言えないことや“ダンスで”しか言えないこと“書を書くことで”しか“絵を描くことで”しか…そんなたくさんの“言葉で”は言えないことを“言葉で”総括して言いきってしまったことだ。
谷川さんは、表面的なものと、真実の出どころの違いを知っている。
彼は真実だけをあぶり出す。
『音楽でしか言えないことがある』と常日ごろ音楽家は信じているのに、この言葉の天才は音楽の真髄を“言葉で”言ってしまった。
しかも同時に、真実の音楽が、真実のダンスが、真実の書が、真実の絵が、それらがそれそのものだけの力で、“言葉の力を借りなくても”、純粋に、完結して、人の心を打つ、ということをこの詩を通して“言葉で”保証するという矛盾を実現してしまったというのはなんということだろう。
以上は詩《私が歌う理由》への私の勝手な解釈である。
灼熱の日々をあんなに耐えた紅葉の葉は、今はいとも簡単に冬風のお供をして飛んで行ってしまった。
私たちにはまた新しい年がやって来て、また生きていく。
私はまた音楽の中を進んでいくだろう。
熊本市
東区健軍ハートピアノ教室