2024.08.15
その国では、たくさんの子どもたちがこの世に生まれてくる順番を待っています。
子どもたちはそれぞれお土産を持っています。それは地上に生まれて成長し、生きていく中で発明する薬や機械などです。
その国の名前は“未来の国”、メーテルリンク著『青い鳥』でチルチルとミチルが旅する国のひとつです。
となると、音楽家になる運命の子どもは、たくさんの曲をお土産に持っていることになります。
天才モーツァルトも、たくさんの素晴らしい音楽を携えて生まれてきました。5歳で作曲を始め35歳で亡くなるまでの作品は900曲以上、交響曲からオペラ、器楽曲まで幅広く傑作揃いで、現代でも色あせません。
しかし“未来の国”からのお土産は良いものばかりではありません。
チルチルとミチルの弟は病気をお土産に持って行くことに決まっていました。長くは生きられない子どもとして生まれるのです。
昔は子どもの死亡率が高く、モーツァルト自身7人きょうだいの中で姉と二人だけ生き残りました。また、そのモーツァルトの子供も6人のうち4人が早逝します。この耐え難い現実に人々は何度も遭遇しなければなりませんでしたが、当時はこのようなことは当たり前だったといいます。医学が発達した現代では、命を意識する機会は減っているかもしれません。死が身近だった時代、モーツァルトは生の輝きにも敏感でした。“お土産”を更に大きく開花させることになる一因に、常に死と対峙するという経験が影響を及ぼさなかったとは言いきれません。
モーツァルトのピアノ協奏曲第17番第三楽章で、鳥たちが楽しくさえずっているのを聴く時…。
ジュピター交響曲で、テーマがフーガの手法を取りながら、何者をも寄せ付けない普遍的で壮大な宇宙を繰り広げるのを聴く時…。
管楽器のためのセレナード変ロ長調K.361第3楽章が、彼岸の天使を見さすのを聴く時…。
私たちは、死とのコントラストの中で、彼の音楽に愛と生命の素晴らしさを確かに聴くのです。
熊本市
東区健軍ハートピアノ教室熊本市