2024.06.30
長崎地方気象台の台歌
熊本のお隣の長崎地方気象台には、校歌ならぬ台歌があるそうです。
作詞は尾崎康一、そして作曲は石黒鎭雄です。海洋学者石黒鎭雄博士はあの日系イギリス人作家カズオイシグロの父親です。幼少期にピアノを、大人になってからはチェロも弾いていたことから、作曲の才能もありました。
石黒博士は台歌作曲当時、長崎海洋気象台の職員として海洋研究をしていました。長崎で深刻な被害をもたらしていた潮位の変化による浸水災害を未然に防ぐため、分析を行い長崎港の修築工事にも関わったそうです。
その潮位の研究の論文が海外でも評価され、博士はイギリスの国立海洋研究所に招かれます。そして一家で移住することになったのです。
台歌は4分の4拍子変ロ長調。曲調は学校の校歌のようにきちんとした和声に沿ったメロディーラインです。冒頭にもマーチのテンポで、とありますので4拍子をしっかり保って歌いますが、アウフタクトの始まり方が軽やかさも出しています。
スキップのリズムが勇ましさを表現、 八分休符が細かく記されているのはバッハも顔負けです。
ブレス(息継ぎ)の位置まで細かく指示があります。
強弱記号(p弱くやf強く)はかなり細かく記されていて表現へのこだわりが感じられます。
こまめに大きく小さくしたりメロディーラインを膨らませたりするのは、石黒博士がチェロという弦楽器をされていたからでしょうか。 表情豊かに歌うことへの細かい指示がたくさんあります。中間部のdolce(柔らかく)という音楽記号の箇所も、ビブラートをきかせたチェロのささやくようなまろやかな演奏を想像します。士気を高める曲にあえて優しい部分を入れてあることで、次に来る盛り上がりに効果的なコントラストをつけます。
そしてcresc.(クレッシェンド/だんだん大きく)更にサビ(盛り上がり)はなんとfff(強いという記号を三つも!)。
この記号は魂の叫びを音楽に吹き込むときのショパンのようです。ここで最高音のレがfffで高らかに歌い上げられます。石黒博士のこの仕事にかける強い想いがfffでぐんぐん伝わってきます。
歌詞にも“予報の使命重ければ 覚悟も固き気象台”とあります。使命感に燃え仕事に取り組む博士の責任感の強さは、楽譜を見ているだけでうかがい知ることができます。
他にもお人柄がうかがえる箇所がたくさんございますが本日はこの辺で…。
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