2023.08.31
蝉の鳴き声は、夏休みと明るい太陽とのセットで楽しいイメージと思いきや、シチュエーション次第では怖い音になる。
数年前に訪れたキャンプ場は、ちょうど激しい夕立の直後でモヤに包まれていた。下見だったので他に客もなく、駐車場には自分の車だけ。
空はまだ曇っていて、すぐそこに誰かが立っていても分からないくらい視界が悪い。辺り一面樹々が生い茂っていて、たっぷりの雨水を含んでうっそうとしている。
何かがいるような薄気味悪い気配だけが支配する静寂。肌はねっとりとする暑さなのに、頭の中は思考が停止して凍りつき、一歩を踏み出すのもためらわれる。
その時静寂を破って一匹のクマゼミが鳴き始めた。ジャージャージャーという鳴き声はすぐに数十匹のジャージャージャーとなり、数百、数万もの鳴き声に増殖していく。
薄曇りの森で聞くたくさんのクマゼミの鳴き声の、なんと恐ろしいことだろう。たくさんの蝉が脳の中にまで入り込んで、蝉の声で栓がされたような、抗うことのできない悪夢のような時間だった。
当然作曲家達も怖い音、不気味な音を作品にしている。
ラヴェルの“悲しき鳥”の悲痛な鳴き声、“蛾”の羽がバサバサする音。
シューマン“予言の鳥”の運命を告げる不気味な音。
さすらうシューベルトに取りついて死を待つ“烏”の羽音。
スクリャービンのピアノソナタ第10番は「太陽の口づけである昆虫たち」の象徴とされ、 不気味な震えをするトリルや不協和音が至るところに現れ、“昆虫ソナタ”と呼ばれている。
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室