2022.06.30
ある日「三連符って“1つたたく間に3つ弾く”っていうけれど、結局三連符の一個の音は何秒間かけて弾くんですか?」というご質問をいただきました。想定外の出来事にしばし思考停止。我々は一拍の中に2つ弾くとか3つ弾くということは感覚的にできることが普通なので、一個の音を何秒かけて弾くという感覚はないのです。
音楽における理系の方の考え方は私からすると目からうろこですが、逆に私が普通にやっていることがその方には難しかったりします。
もちろん♩₌60で弾いていたら一拍が1秒なので、三連符の中の一つの音を弾く時間は3分の1秒、と数学的には説明できるのですが、感覚的に3分の1秒に対しては違和感があります。楽譜を数学的にとらえて演奏するのは時に合理的なのですが、数字に頼りすぎると非現実的になってしまいます。音楽を演奏することには“感覚”というものが大きなウェイトを占めているからです。
さてショパンの傑作『幻想即興曲』は、悲しさと激しさ、優しさと美しさが劇的に繰り広げられるあまりにも有名で、ピアノを習った人なら必ず憧れる名曲中の名曲です。しかしこの曲を歌ってみようとすると歌えません。右手にショパンのメッセージが確かに聴かれるのですが、空中をさまよう煙か何かのようでつかみどころがありません。それなのにそのもやもやしたものは人の心をわしづかみにして流れていくのです。
それは“左手が3つの音符を弾く間に右手は4つの音を弾く”という左右の音の数が割り切れないことによる不安定な感じが、メロディーというはっきりとした枠を形成せず、人の心をざわつかせるからです。
他にも割り切れなさ大好きな作曲家スクリャービンの曲にも、左5つと右3つを合わせるとか、左3に右7とかあり、合わせ方に苦しむのですが、それは楽譜を眺めている時に思うこと。ひとたびそれが音になると例えることのできない幻想的な音楽の世界が広がり、《音楽》を楽譜上の《数字》で表そうとすればそうなってしまうだけで、立ち上がるこの音楽こそがすべてなのだということに気づきます。
さて、『幻想即興曲』をゆっくりから練習して自然と感覚的に弾けるようになっていく生徒さんもおられますが、それが難しい場合、さあどうやって弾けるようにしていくか…?
理系的発想を少し拝借して、一拍を1としてどこでどの音が絡み合うかを線で結びます。ちなみに左手は0.33333・・・。右手は0.25です。(写真参照:緑線はピッタリ合わせる箇所)ゆっくりのうちは数学的に合わせて弾いていき、少しずつテンポを速くしていきます。レッスンでは歌える形に変換して唱えるように弾くので、もっと簡単に思えます。
ポイントは練習しながら徐々に数学的な考え方を捨てて、耳でしっかり聴きながら音楽的な感覚の方にシフトしていくこと。どこかの時点で計算しながら合わせている感覚を捨てていくと、だんだんとあの流れるようなショパンの悲しみを表現できるようになっていきます。(この練習法はほんの一例で他にもいろいろなやり方があります)
数学的思考も上手に取り入れると難しさを突破する鍵となります。数学の先生やお医者様でピアノがとても上手い方はたくさんいらっしゃいます。バランスよく脳のいろんなところを使って弾いてらっしゃるのでしょう。
熊本市東区
HEART PIANO ハートピアノ教室熊本