2022.05.30
『ユニゾン』とは右手と左手が同じ音型を演奏する、アンサンブルでは奏者全員が同じ音で同じ音型を演奏する、ということです。レッスンで必ず教えていますが、小学生でもすぐにおぼえて「あ!ここユニゾン。」と元気に指さしてくれたりします。楽譜を模様として見ると、山の稜線が同じ軌跡を描いて上下で並んでいるように見えるので、すぐに分かります。
また『ユニゾン』は単に右手と左手が同じ、というだけでなく独特の雰囲気を持っていて、作曲家も意図して効果的に使います。
モーツァルト作曲【ピアノソナタK.331第2楽章】に4小節間出てくるのは高貴な『ユニゾン』。古楽器のオーケストラが全員で『ユニゾン』しているようです。ここに『ユニゾン』を置くことで音楽にきっちりと焦点が合い、きりりとしたポイントが生まれます。モーツァルトの指揮で弾く楽団員になったように、音の余韻が空間に勢いよく広がります。
ドビュッシー作曲【レントより遅く】は切ない『ユニゾン』。美しい花が開くように響いた和音に続く下降していく6小節間の『ユニゾン』の音型。心地良いもどかしさを持ってためらいがちに降りてくるメロディーには複雑な感情が見え隠れしますが、そのニュアンスは『ユニゾン』ゆえに深刻になりすぎず宙に浮いたピュアな光を放ちます。
ショパンの【ピアノソナタop.35第4楽章】は、吹き抜ける『ユニゾン』。ピアニストのルビンシュタインが “教会の墓地を覆う夜の風”と呼んだ謎めいた音型が駆け抜けます。変ロ短調という暗い性格を持った調による曲全体を覆う『ユニゾン』効果によって、すべてを破滅へと駆り立て砂と消し去ってしまいそうです。
ピアノ独奏以外では、メシアン作曲【世の終わりのための四重奏曲第6曲《7つのトランペットのための狂乱の踊り》】の激しいエネルギーに満ちた『ユニゾン』。クラリネット、ヴァイオリン、チェロ、ピアノの4人の奏者は約6分間ものすごいエネルギーで終始『ユニゾン』し続けます。
第二次世界大戦中ドイツ軍の捕虜となったメシアンは、収容所の劣悪な環境とぎりぎりの精神状態の中でこの曲を書きました。4人の楽器の変則的な組み合わせは、たまたま同じ収容所で出会った音楽家で構成されたからです。
【世の終わり…】は【時の終わり…】とも訳され、宗教的意味を持つこの曲は“戦争の時の終わり”への祈りのようです。
他にも『ユニゾン』の魅力を持った曲は枚挙にいとまがありません。
「こことここ、おなじだね~。」「ゆにぞーん!」と明るく答えている生徒さんにも、もう少し大きくなったら『ユニゾン』の持つ魔力にインスパイアされる日が来ることでしょう。
熊本市東区健軍
HEART PIANO ハートピアノ教室