2019.03.28
子どもと大人では価値観の違いが大きい。食べ物や遊び、好きな物語も大人と子どもでは変わってくる。大人が忘れてしまった魅力を子どもは感じ、子どもには分からない機微を大人は感じる。
ピアノ界でも同じだ。惹かれるピアノ曲は年齢によって違う。子どもは《ブルグミュラー25の練習曲》が大好きだ。譜面が比較的バイエル後半より読みやすく、一曲一曲に題名が付いていて弾く人のイマジネーションを誘う。第1曲目“素直な心”を弾いた時のすがすがしさ。そしてあの超有名な第2曲目“アラベスク”。第15番“バラード”の異次元空間。極め付けは第25曲“貴婦人の乗馬”の楽しく明るいリズム。
私の子ども時代は、バイエルから解放されて初めてロマンティックな曲に触れる曲集の定番で、すぐに夢中になったものだ。
しかし、大人になってそれは初心者向けの楽しさを連れてくる入り口に過ぎなかったことに気付く。ブルグミュラーは美しい曲調で弾きやすく、音楽の中に入っていきやすい親切な曲が多い。だが世の中にはもっとハードな、人生観さえも変えてしまいかねない真のメッセージを内在し、国境や時代を超えて人の心を揺さぶり続ける曲が他にたくさんあることを知る。
ところで、知人に小さい頃から難しい曲をどんどん弾いて周りの期待を一身に集めてきたピアニストがいる。メンデルスゾーンやシューマンの子供のための名曲を次々と弾きこなし、ショパン、バッハ、ベートーヴェン…もうピアニストが弾く曲ばかりをどんどん弾いていた方だが、先日ポツリと「ブルグミュラーを子どもの頃の発表会で弾きたかった。」とおっしゃった。しかしここまでの実力を作ったのは次々と弾き上げてきた大作曲家の作品のおかげでもある。
ピアノのレッスンでは必ずブルグミュラーを弾かなければならないということはないので、進度が早い生徒さんは弾く機会を逃しがちだ。私は気を付けてブルグミュラーに限らず「何か弾きたい曲はある?」と時々声かけしている。しかし、バレンボイムも「ベートーヴェンの後期のソナタを小学生が弾くのに早すぎることなんてない。」と言っていたくらい、奥深い作品に早くから触れることも大事だ。やはり大作曲家の小品も入れ込みたい。
《ブルグミュラー25の練習曲》は初心者にとって素晴らしい曲集だ。弾きたい生徒さんはレッスンに取り入れる。子どもの頃の気持ちは大事だし、この曲集がきっかけになればいい。楽しく弾いた思い出がその子のピアノライフの中で大事なものを作っていくはずだ。そして、成長と共に“その時期”が来たら迷わず“苦しいほどに心に迫ってくる曲”“容赦なく自分をわしづかみにされる曲”にも飛び込んでいってほしい。
使用テキスト例・レッスン例
HEART PIANO ハートピアノ教室
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